サウセル国に一旦帰国したメルーン兵たちは宿近くの大きな酒場で盛り上がった。

衛兵
「呑んでっかーレビィ隊長よぉ!!」
「お前の光の斬撃すげぇな!敵がズバババッてよー!!!」

レビィ
「離れてろ。」

レビィは皆をあしらいながら静かにエールを呑んだ。

クィレリア将軍
「どしたーレビィ静かに呑んでも楽しくねえだろ。」

クィレリア将軍はレビィの隣に座った。

レビィ
「クィレリア将軍。奴は何者だったんでしょう?」

クィレリア将軍
「さあな。だが放っとくと厄介になりそうだよな。」

レビィ
「それとあのセリフ.....」

クィレリア将軍
「『この世を統べる者を導くその時まで。』だったか?」

レビィ
「はい。何かよからぬことが起きそうな気がするするんです。」

クィレリア将軍
「いま悩んでもしょうがねえよ。今日はお前の活躍なきゃ今もこうやって呑めてねえよ。ほら、呑んだ呑んだ!!」


クィレリア将軍はレビィの肩を軽く殴りその場を去った。

レビィ
「この世を統べる者を導くその時まで.....そしてアンデッド族を容易く従える者....」


メルーン王国にて一人のボロボロのローブを着た者が国に入ろうとした。

衛兵
「止まれ。何用だ。」

「1晩中走ってきたんだ。とりあえず飯を出せっての。」

衛兵
「あ.....貴方様は....どうぞ!!」

ペイン
「懐かしいな、ここは。国王は元気か?くたばってないの?」

衛兵
「お...お元気でございます!!さ!城門へ案内します。」


ガチャッ.....

王室にはバミリオ王一人だった。

バミリオ王
「元気そうで何よりじゃな。」

ペイン
「あんたも元気そうだ。」

バミリオ王
「昔のまんまじゃ。何も変わらんの。」

2人はハグをした。


ペイン
「この種族だ。いつ死ぬか分かんないよ。」

バミリオ王
「で、お前が来るということは何かあったのかの。」

ペイン
「ああ。」

ペインはバミリオ王の王座にドカッと座り手元にあったリンゴをかじった。

バミリオ王
「そこはわしの椅子じゃ。」

ペイン
「硬い事言うんじゃねーよ。」

バミリオ王
「で、話を聞こう。」

バミリオ王は別の椅子に座った。

ペイン
「その前に俺の質問に答えてもらう。あの子はなんだ?」

バミリオ王
「あの子?」

ペイン
「セリアの子さ。赤髪で赤い目をした女の子だよ。」

バミリオ王
「クロエのことか。」

ペイン
「そうだよ。そいつさ。しかもあの種族.....更に『闇』属性も備えやがって....どうしてあの子を冒険者にした!!」

バミリオ王
「あの子は昔から我が子のように可愛がってやった。だからこそこの国を好きになりこの国から出ぬように導いてやったつもりじゃった。」

バミリオ王はお茶をすすった。

ペイン
「昔のセリアを見ている気分だ。あの何でもかんでも興味を持ち腕白で生意気なあの性格....何もかもセリアだ。ふとももにはセリアのダガーまで.....」


バミリオ王
「お前が傷だらけのセリアを担いでこの国に来た時を覚えておるか?」

ペイン
「よせよ。昔のことだ。」

バミリオ王
「悪魔族のお前たちを何故助けたと思う?この世に悪魔族は存在してはならないと思ってないか?今のセリアを見てみろ。人間のように人間と共存しておる。あんな風に平和にならないものか。」

ペイン
「人間族が悪魔族を嫌う限りそれはあり得ない。」

バミリオ王
「およそ200年前の戦争も30年前に終焉し今の若い子は戦争は知らないからのぉ。知らん方がいい。」

ペイン
「クロエだっけか?あの子は背中に気をつけて生きていく運命だ.....セリアと共にひっそり暮らし隠さないとあの子の命が危ないぞ。」

バミリオ王
「セリアに似たのは容姿もそうだが性格も似とるとお主も言っておろう?何よりこの世界を見てみたいという願いがあったのじゃろう。」

ペイン
「........」

バミリオ王
「で、話すのはクロエのことじゃなかろう?」

ペイン
「ああ。この地レムリア大陸はあんたが統一してるからわからないだろうけど人間族のある組織が魔女狩りをしている。」

バミリオ王
「魔女狩り?!何じゃ?」

ペイン
「そのままだよ。魔法を使える女を殺しまくってる。」

バミリオ王
「ここ数年魔法を使える者は男ではなく女ばかりになってきたからか。それに魔法を扱える者もどんどん少なくなってきている。魔法を扱う者を殺すのはどこかで聞いたことはあるが本格的に始まっとるとは....組織とは?」

ペイン
「確か『黒海団』という組織。」

バミリオ王
「黒海団....」

ペイン
「メガラニカ大陸のマサ国の頭のいかれた王が人間族のみで結成されたのが始まりだそうだ。今となっては各国も賛同しこの『黒海団』も大きくなっている。賛同に反対する国は次からの適性検査は無くすみたいだ。」

バミリオ王
「この国も止めざるを得ないか.....」

ペイン
「今はまだ大きな動きは無さそうだが後々大きくなるぞ。」

バミリオ王
「大きな動きは無い?そもそも魔法を扱う女を殺す時点で大きな動きではないか。」

ペイン
「冒険者で言うA〜Sランクの魔術士のみを公ではなく暗殺で殺されている。」

バミリオ王
「Sとなるとそれを殺る程強い組織ということか。」

ペイン
「恐らくSランクの人間族の集まりだろうな。2人ずつ各国に配属し部下を集め回ってる。殺すのはその2人のみだそうだ。その部下は何のために集めているかは分からない。」

バミリオ王
「集めて楽しくやろうってわけでもなさそうじゃの。お主の種族の消息は?」

ペイン
「大丈夫だ。あそこなら見つからないだろう。セリアは?どこだ?」

バミリオ王
「メルーン領のキール村という所じゃ。安心せぇ。衛兵も警備に当たらせる。」

ペイン
「わかった。」

バミリオ王
「助かるぞ。お前がこのメルーン国のスパイでもあるからの。クロエのこと頼むぞ。」

ペイン
「ああ。」






クロエ
「.....暇だ。」

クロエは一人女子部屋でベッドでくつろいでいた。
3人はまだ動ける状態じゃなかった。
ファリア達は今日から任務らしいし。

クロエ
「今日も少し出かけよう。」

膝上少し短めの黒いタイトなスカートに紺色のシャツをスカートに入れた。
いつものベルトにカバン、ふとももにはダガーを身につけ髪はポニーテールにした。

クロエ
「ゼラさん、ゼフさん、ターナ行ってきまあー!!!」

ゼフ
「あの死にかけの3人と違ってあの子は元気だな。」


クロエは気になることがあった。
冒険者ギルドに向かった。

『採掘場の未探索地の調査 ランクC』

まだあった。
その張り紙を取り受付に持って行った。

ナーシャ
「あら、クロエちゃん。どう?3人の調子。」

クロエ
「明日くらいには復帰できると思います。」

ナーシャ
「そっか。で、その張り紙持ってどうしたの?」

クロエ
「ちょっと気になることがあって....この張り紙なんだけど....ずっと貼られていて誰もこの任務を受けないのはなんでかなって。」

ナーシャ
「探索任務だからよ。報酬も少なく炭鉱場の地下だから危険も少ない。炭鉱員だけでできるでしょって感じで誰もやらないの。でもこの国が定めた法律によって炭鉱員は未調査の区域には立ち寄ることができない。ってわけ。」

クロエ
「あの.....これ、わたし一人でもできる?」

ナーシャ
「いいけど....気をつけてよ。まあ魔物の気配も無さそうだし....無茶はしないでよー?」

ナーシャは張り紙にハンコを押した。

ナーシャ
「一応、ポーションと.....あれ?クロエちゃん武器は?」

クロエ
「あーダガーだけで大丈夫かなぁ....って。」

杖持っているのに攻撃は出来ないなんて言えない。

ナーシャ
「そ。分かったわ。地下だから暗いと思うからろうそく持って行きなさい。」


ナーシャはポーション2瓶、革袋を渡した。

クロエ
「んじゃあ!行ってきまあああああああ」

ナーシャ
「げ....元気ねぇ...」


クロエ
「確か採掘場は北だったよね!また転送陣なるけど我慢してね!」

ルナ
「にゃっ......」

北に転送するとそこには大きな岩山で頂上は雲で見えなかった。

クロエ
(宿から少し見えていたけどいざ来たら凄い迫力.....)
「岩山のふもとまで結構歩くよ。ルナ、おいで。」

ルナはクロエの肩に乗った。

クロエは岩で出来た長い階段を登った。

「おーい!嬢ちゃん。乗って行くかー?」

ロープで繋がれた10人程乗れる機械が自動で上り下りしていた。
ドアーフ族の一人が声をかけてきたのだった。

クロエ
(ナーシャさん....こんなのあるなら最初から言ってよ....結構歩いたよ。)
「乗りまーす!!」

ドアーフ族
「嬢ちゃん冒険者かい?」

クロエ
「そう見える?」

ドアーフ族
「見えない。がはははははははは。」

クロエ
(見えないのかい....)

ドアーフ族
「まあでもこの岩山はヘルメット被ったドアーフ族と人間族の男しかいねーからな!お嬢ちゃん地下の探索してくれんだろ?」

クロエ
「そう!」

ドアーフ族
「気をつけなよ。変な声が地下から聞こえて最近は大きな魔物がいるんじゃねーかと噂になっとる。」

クロエ
「大丈夫!その時は全速力で逃げるから!」

ドアーフ族
「がははははは。そりゃ頼もしいね!」

クロエ
(....魔物?!そんなの聞いてないよ!!どうしよう、どうしよう)

ドアーフ族
「ついたぞー。お嬢ちゃんは地下だからあそこの穴に紐がかっとるだろ?あそこだ。」

岩山は大きな穴から逞しい体格のドアーフ族や人間族が出入りしていたが地下はまた別の入り口だった。
最近作りたてのような石の階段で作りは脆く急な坂を降りなければならなかった。

ドアーフ族
「気いつけなー!」

クロエ
「ありがとおー!!」

クロエ
「ルナ。行くよ!」
(なんでこんなヒールなの....ママの好みってこれ冒険者じゃないじゃん」

ブーツにヒールが付いていると言えあまりにも冒険者向きの靴ではないのは分かっていた。ただママの好みだから頑張って履いた。
でも、この階段はしんどすぎた。

クロエ
「なんか天気が怪しくなってきたな...」

空は青から灰色に雷が鳴り出してきた。

クロエ
「着くまで降らないでよ。頼むよ!」

クロエの額にポツンッと滴が落ちた。

ポツンッ

ポツンッ

だんだん激しくなってきた。

サーーーーーーッ

クロエ
「ほんともう最悪!こんな天気なら宿でゆっくりすればよかった。ルナ!濡れないようにローブの中に入り。」

やっとの思いで着いた。

クロエ
「これまた登るんだよね....帰りのことはまた後で考えよ.....ほら、ルナ。ここなら濡れないよ。」

洞窟に入りルナを地面に放した。

クロエ
「暗っ!!!!!」

洞窟の中は暗闇で何も見えない。
そう思ったクロエの赤い瞳は急激に濃くなり真っ赤な色に染まった。

クロエ
「......見える。」

クロエ自身も分かっていなかった。
暗闇で発揮する暗視出来る目。

クロエ
「ルナも見えるでしょ?」

ルナ
「にゃぁ。」

クロエ
「松明もいらないしろうそくも要らない。凄い。何で見えるんだろう。猫みたいだね。」

クロエの瞳は猫よりも暗いところが見え何より血のように赤い目は不気味さえ感じる目だった。

クロエ
「よくわからない。行こう。」

暗闇の中を進んだ。

ポツンッ

ポツンッ

と、どこからか湧いた水滴が何百年も同じ感覚で岩に落ちて小さな池のようなものがたくさん沢山あった。

クロエ
「綺麗なところだね。」

ルナ
「にゃ?」

クロエにはまるで真昼の洞窟のように明るく見えていた。

クロエ
「あそこ.....光ってる。」

洞窟の上からは何本も光が池に刺し輝く宝石のように神々しい。

壁には古い古い絵が彫刻されていた。

クロエ
「なに.....これ......」

女性に下半身が魚の形をした絵が当時の戦いの様子を彫刻し刻まれていた。
皆、3本の槍を掲げ戦いに挑む様子。

クロエ
「古い絵だね。ずっとずっと昔のかな?これ。」

文字が一言刻まれていた。
読めない。どこかの国の文字かな?
クロエは腰の鞄からメモを取り出し見たこともない字を一画一画丁寧に書き写した。

クロエ
(なんて読むんだろう....)

まだ先はあった。
その先には祭壇のような場所で行き止まりだった。
祭壇には貝殻や真珠が供えられていた。

クロエ
「んー。何も無さそう。調査はここで終了かな。魔物なんていないね!」

ルナ
「んにゃ。」

クロエは任務の張り紙を手に取り調査終了と書いた。

クロエ
「宝箱も置いてあったらよかったのにね!さっ!ルナ!帰ろ!」


帰り際また彫刻された別の絵を見た。
1人と7人が剣を交える絵の様子。





ナーシャ
「クロエちゃんおかえりー。何かあったー?」

クロエ
「古い絵?と祭壇くらいかな。なーんもない。」

ナーシャ
「魔物が出ないだけわかればいいんだけどね。あとは考古学者の人たちが行くでしょ。ありがとね!はい。今日の報酬。」

冒険者ギルドを出た。

クロエ
「雨やーっば。ルナ!宿まで走るよ!」

外は大雨ですごい音を立てながら地面に打たれていた。



ゼラ
「クロエちゃんおかえり。あれ、任務行ってたの?」

クロエ
「そ。そ!」

ゼフ
「あんま無茶すんなよー。」

何か宿内ご騒がしかった。

クロエ
「何の騒ぎ?」

ゼフ
「ああ。」

レイ
「おい!コラ!ゾーイ!!それ俺んのだぞ。」

ゾーイ
「うるせえ!よこせよ!!」

メル
「ちょっそれ!メルのお肉!!」

クロエ
「あっ皆よくなったんだね!」

ゼラ
「お陰でうちの食料が底をつきそうだよ。ちょっと今から食材買ってくるから。」

クロエ
「はーい!」

レイ
「ば!ぐぼべ!(あ!クロエ!)」

食べ物をパンパンに詰めた口は何一つ聞き取れなかった。

クロエ
「みんな良くなったんだね!」

メル
「クロエえぇ。ごめんよぉ。うちらが内緒でキノコ食べたせいで....」

メルはクロエに泣きじゃくった。

クロエ
「あぁ〜。いや、大丈夫。」

ゾーイ
「クロエ悪かったな。任務行ってたのか?」

クロエ
「未探索任務をね!」

レイ
「いやー悪かったなぁ。心配かけた。」

クロエ
「3人なら放っておいても大丈夫だと思ってあまり心配してなかったよ!」

メル
「なにそれひどーい。」

クロエ
「そうだ!そろそろ任務に帰ってきてるかな。紹介したい人がいるんだよね!」

レイ
「彼氏か?」

クロエ
「バカ。ちょっと待ってて!」

クロエは大雨の中宿を飛び出した。
向かったのは向かいの宿。

レイ
「なんだ?」

メル
「さあ?」


ガチャ。


ファリア
「おっ。お前ら随分良くなったじゃねーか。」

レイナ
「病み上がりですから無茶食いしないようにして下さい。」

レイ
「?!」

ゾーイ
「誰だ?」

クロエ
「この人たちが3人を担いで宿まで運んできてくれたんだよ。」

クロエは状況を説明した。

メル
「そうだったんだぁ。ほんとありがとう。」

ナージャ
「い....いや....別に.....」

ファリア
「冒険者始めて早々食当たりでくたばるとかお前ら面白えーな。俺ファリアだ。」

ナージャ
「ナージャです。非戦闘の薬師です。」

ナージャ
「ナ.....ナージャです...よろしく....お願いします。」

ムゼイア
「僕はムゼイアだよぉ〜。」

3人も挨拶し一気に意気投合し皆で食事会となった。

ゼラ
「おや、なんか増えてるねぇ。食材沢山買ってきてよかったわ。」

ゼフ
「おう。なんか騒がしくなってるぞ。」

ターナ
「見て!ファリアさんの斧大きくてかっこいいんだよ!」

酒もゼラが振る舞い皆の笑いが宿の中を賑やかにした。

ゼフ
「この宿がこんな賑やかになるとはな。」

ゼラ
「そうねぇ。」

ファリア
「んじゃ、そろそろ帰るわ。」

レイ
「おう。」

ファリアとレイは握手をした。

ムゼイア
「くろちんまたねぇ〜」

クロエ
「ムゼイアもまたね〜」

ゾーイ
「やっぱこいつらなんか似てるよな。」

レイナ
「そうでしょう?」

ナージャ
「また飲み過ぎちゃったー。」

メル
「ナージャ!ぬあ!!」

ナージャはメルに寄り掛かった。

レイナ
「ナージャさん。帰りますよ。」

ファリア
「じゃあな。変なキノコもう食うんじゃねーぞ。」

静まりかえった宿の中は散乱した食器と空き瓶だけが散らばっていた。

クロエ
「片付けよっか!」

メル
「だね!」

レイ
「おーい!早く皿持ってこいよ!!」

ゼラ
「ちょっとー!洗いますって!」

ゾーイ
「いいから、いいから、ゼラさんは座って。」

メル
「ねぇ、クロエ。あの2人結構呑んだ?」

クロエ
「なんか....恐い....」

レイ
「洗うからはよ持ってこいよー!!」

メル クロエ
「はーーーい!!」

ゼフ
「どうゆう風の吹き回しだ?」

ゼラ
「さ....さあ?」