船が揺れてクロエは見張り台の上で空を見上げながら雲を見つめていた。お腹の上でルナは寝ている。



旅をして2日目。

レイとゾーイはずっと釣りをしている。
メルはというと船長室に行き船長と意気投合したのか操縦など色々教わっているみたい。

クロエは立ち上がり甲板まで降り、杖を取り出した。

(浮け。)

海に向かって杖を一振りした。
海の水が小さな柱となり球体となって浮き始めた。

森でのママの話を思い出していた。



ママ
「クロエ、メル、魔法には2種類あるのは分かる?」

メル
「強いか弱いか!」

クロエ
「違うよ!メル!熱いか冷たいかだよ!」

ママは笑い、

ママ
「二人とも違うわよ。破壊魔法と補助魔法よ。」

メル クロエ
「ん?」

ママ
「あなたたちが今放った雷や炎は破壊魔法。いわゆる敵を傷つける魔法のことよ。そして補助魔法は」

ママはポケットに入るほどの小さな枝の杖を取り出し落ちている葉っぱに一振りした。

(浮け。)

葉っぱはメルとクロエの目の前をふわふわ揺れだした。

ママ
「補助魔法は物を浮かしたり回したり溶かしたり、生き物には足を早くさせたり固く強化したり筋肉を増強して強くしたりできるのよ。」

クロエ メル
「へぇ〜!」

ママ
「ほら、やってみなさい。」

二人は2枚それぞれの葉っぱに一振りをした。

メル
「全然動かないよー?クロエも動かないよねぇ.....」

クロエの方はふわふわ浮き始めた。

ママ
「メルが破壊魔法が得意ならクロエは補助魔法ね!そうとなれば二人とも自分の得意な分野を極め続けなさい。苦手な分野は捨てなさい。」

クロエ
「どうして?全部出来たほうがいいじゃん!」

ママ
「破壊魔法、補助魔法それぞれ引き出す魔力の種類が異なるの。破壊魔法使いたいのにいざ使った時敵が浮いたらどうする?物を浮かばせたいのに燃やしたらどうする?」

メル
「確かに...」

ママ
「そうならないため役割分担もできるのがあなたたちパーティの強みね。自分の身体に染み込ませるの。だからメルは雷をひたすら落としなさい。クロエは沢山の本を読んで知識を身につけなさい。」


海を眺めながらクロエは練習した。
破壊魔法はただただ破壊するためだけのもの。補助魔法は少し扱いが難しい。
特に生き物にかける魔法は特に。

物が壊れても補助魔法で直すことはできる。
ただ傷ついた生き物は治すことはできない。死んだ生き物は生きかえすことはできない。

はぁー
そんな魔法あればいいのにな〜

ゾーイ
「どんな魔法だよ?」

クロエ
「いや、病気や傷を治す魔法あればなーってね!」

ゾーイ
「そんな気前がいい魔法ないだろ。あったら薬屋潰れるだろ。」

クロエ
「確かに!!」

2人は笑った。

レイ
「おーい、お前ら飯食おうぜ。」

ゾーイ
「おう。クロエも行こう」

クロエ
「うん!メルは?」

レイ
「先行ってるぞ。」

クロエ
「ルナも行こう。」

にやーお。

船員は皆男らしくて優しかった。
釣りを教えてもらったり帆の張り方や今どの位置にいるかの風の感じ方、コンパスの見方など丁寧に教えてもらった。


4日目

カルシャ
「クロエさん。ちょっと。」

魔法を練習していたクロエをカルシャが呼んだ。

カルシャ
「地図は持ってる?」

クロエ
「ううん。持ってないよ。」

カルシャ
「冒険者になるなら1枚は持ってないといけませんよ。ほら、」

そう言ってカルシャは地図を1枚出して広げた。
その地図は2つの大陸の地図だった。
1つはレムリア大陸。
その大陸には3つの国メルーン王国、サウセル国、ニーラマナス国。
今から行くエマ大陸はレムリア大陸よりも遥かに大きな大陸だった。
ゴレアリア大国の縮小地図ももらった。

クロエ
「ありがとう!カルシャさん。」

カルシャ
「どういたしまして。今から行くエマ大陸のゴレアリア大国はドアーフ族、人間族、ホビット族の国で主に鉱石、炭鉱、宝石を貿易品として発展している国です。
もちろん加工店も存在します。メルーン王国にはない店もあると思いますので楽しめたらと思います。」

カルシャ
「それともう一つ。ゴレアリア大国の王はドアーフ族です。頑固で他種族に対してあまり親密な関係を築きたくない性格で国外から来た人間族にも謙遜していますので国にはあまり触れないように。」

クロエ
「どうせそんな長居はしないと思うから大丈夫だと思うけど....どうしてそんな仲良くしたくないのかな。」

カルシャ
「ドアーフ族はホビット族、人間族に対してはまだ友好的な場合が多いいですがエルフに対しては昔から不信感を抱いていることが見られるんです。典型的なドワーフは鍛冶や石工を職業としており、かれらが作り出す作品の中にはエルフの作品よりも優れていると感じているのでしょう。エルフもドアーフも制作する武器や装備品は似ていますのでライバル心もあると思います。ドアーフとエルフは遥か昔から何度も戦争を繰り返していますからいかに水と油か分かりますよね。」

クロエ
「でもカルシャさんはハーフエルフだよね?」

カルシャ
「私は元々ゴレアリア大国になる前からその土地で魔法研究をしていましたから、今では何も言われず研究を続けることが出来ています。」

クロエ
「そ、そうなんですね...(この人一体何歳なんだろ.....)」

カルシャ
「明日の朝には到着する予定ですのでごゆっくりしてってくださいね。」

カルシャは書斎に戻った。


5日目

見張り船員
「おーい!見えてきたぞー!」

レイ
「クロエ!見えたってよ、メルも起きろ!」

女子部屋で身支度をしていたメルとクロエを呼んだ。

メル
「あいつには常識ってのはないのかね。私たちが着替えていたらどうするの。」

クロエ
「私は着替えてたよ。」

メル
「マジ?!」

クロエ
「うん。何も言わずに叫んでた。」

メルは大きくため息をついた。

メル
「レイもレイだけど....クロエもクロエよ?いくら昔からの友達だからってもう私たちは大人の体付きになってきたんだし恥じらいを持たなきゃ。」

クロエ
「うーん。」

確かに子供の身体とは違う。身長も伸び胸も膨らんできた。ただ異性に興味はまだなかった。

メル
「んもう。ほら!ゴレ...ゴレア....なんだっけ?」

クロエ
「ゴレアリア大国?」

メル
「そう!それ!なんと言っても踊り子が多い街があるらしいよ!」

クロエ
「踊り子?」

メル
「そう!綺麗な衣装を纏って劇場で観客の前で踊ったり戦闘だと踊りながらチャクラムを使って華麗に倒して...もうほんとかっこいいんだから!」

クロエ
「戦うの?」

メル
「ゴレアリア大国は踊り子の発祥の地。200年前の8人の勇者のパーティには踊り子もいたんだってさ!凄いよね!ほら!行こ!」

甲板に出たら遠くに土地が見え港には船がずらりと立ち並びどれも大きな建物のように並んでいた。

クロエ
「ここがゴレアリア!」

船長
「おーいお前ら、気つけて楽しんでこいよ!」

メル
「おっちゃんもありがと!」

船長
「旅は楽しまなくちゃな。」

桟橋に降りたクロエ達は街の方へむかった。

カルシャ
「クロエさん、そして皆さんここでお別れです。」

クロエ
「カルシャさん、どうもありがとう!また会えるといいね!」

カルシャ
「そうですね。あの正面に見える高い塔が冒険者ギルドになります。まずあそこで冒険者登録を。」

レイ
「何から何まで助かるな。カルシャさんありがとう。」

レイ
「んじゃ行こか。」

4人は冒険者ギルドに向かった。
色鮮やかでどれも違う色をした建物が海に反射して照らされ鉄で出来た柵が一つ一つ細かく装飾されてあった。
人の数、見たこともない造形の建物に圧倒され4人はただただ口を開けていた。

クロエ
「ルナ!見て!」

ガラス越しに店内を覗いた先には色んな種類のお菓子がたくさん置かれていた。

メル
「ちょ、クロエ!はぐれちゃうよ!」

クロエ
「あの高い塔に行けばいいんでしょ?大丈夫だって!」

メル
「んもお!」

ルナとクロエは店内に入った。

「旅人のお嬢さん?おひとついかが?」

屋台には綺麗な瓶の入れ物に青い液体が入ってあった。スプレー式になっている。

メル
「ポーションなら何個か持ってますが....」

「ほら、一振りしてみなさい。」

シュッ!

メル
「うわぁ....いい匂い!」

香水だった。
生まれて初めて嗅いだいい匂いにメルはメロメロになっていた。

「これを一振りすると片想いする人も必ず振り向くこと間違いないですよ!」

年頃のメルはもう驚きを隠せなかった。

メル
「おばさん!一つください!!」

「あいよ。ただ振りすぎもよくありませんからね。幻覚効果もありますから。」

メル
「あとこっちの口紅も一つ下さい!!」

「ありがとさん。」



レイ
「あいつらどこいったんだよ。」

ゾーイ
「冒険者ギルドもわかっただろうしそのうち来るだろ。」

レイ
「そうだな。」

「おいゴルァ!てめえ調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「あぁ?!お前が悪いんだろ!!」

そこには街のど真ん中で喧嘩をする青年達だった。

「かかってきやがれ!!」

「上等だ!!」

男が1人吹き飛ばされゾーイに当たった。

カチン....


レイ
「なあ、ゾーイちょっと腹すかねぇか?」

前を歩くレイは後ろを振り返ると怒りで我を失ったゾーイがいた。
ゾーイは昔から喧嘩が強くすぐキレる性格だった。

ゾーイ
「レイ、先に行け。こいつらぶっ飛ばす。」

レイ
「あーあ。もう先に行くぞー。」

ゾーイ
「テメェらまとめてかかってこいやゴルァ!!!!!!」

4、5人ぶっ飛ばすゾーイは一人一人掴みボコボコにしていた。


レイ
「くっそ。どいつもこいつも....」

高い塔の横には2人の戦士の巨大な像が剣を構えていた。

レイ
「かっけぇな。」

入り口に入るとメルーン王国とは違った内装でとにかく広かった。ベンチには数人パーティを組んだ冒険者達が意気揚々としていた。

「冒険者の方ですか?」

レイ
「ああ。受付はここであってます?」

受付嬢
「そうですよ。」

ニコニコし笑顔が絶えない黄緑色の毛色の猫人族の女性だった。

レイ
「冒険者登録したいんすけど。」

ナーシャ
「かしこまりました。それでは私、担当をさせていただきますナーシャです。よろしくね!」

そう言い用紙を取り出しナーシャは書き始めた。

ナーシャ
「どこから来られましたかぁ?」

レイ
「ここから南のメルーン領土のキール村です。」

ナーシャ
「ふむふむ、ではソロで冒険者ですね!」

レイ
「いや、あと3人いるんすけど....」

ナーシャ
「おや、4人で揃わないと登録できません。」

入り口からわいわいと話しながら3人が入ってきた。

メル
「クロエー!食べすぎじゃない?!なんでそんなに食べて太らないのよー!」

クロエ
「メルいい匂い!口も赤いね!」

ゾーイ
「ふー。ふー。」

クロエは片手に棒付き飴、もう片方に綿飴を持ってニコニコしながら舐めていた。
メルはとにかく匂いを発して口は赤く染まり髪には買ったであろうヘアピンが付いていた。
ゾーイは鼻血が出ておりとにかく息が荒かった。

ナーシャ
「あの方達で間違いないですか?」

レイ
「......はい。」

ナーシャ
「ではあなたたちの種族とクラスを教えて下さい。」

レイ
「人間族剣士1人、バカ3匹です。」

メル
「ちょっと酷いよー!」

レイ
「てめえらが遅えからだよ!!」

ゾーイ
「オス2メス2で」

レイ
「お前も黙ってろ!!」

メル
「美女2筋肉2で」

クロエ
「あはははははははははは」

クロエは腹を抱えてずっと笑っていた。

ナーシャ
「い....いいパーティですね....」

受付のナーシャはタジタジになりながら今まで見てきたパーティでこんなふざけたパーティを見るのが初めてだった。

レイ
「人間族が4。両手剣の剣士が1、大剣の剣士が1、魔術士が2。猫が1」

ナーシャ
「かしこまりました。レイさん、、」

小声で言った。

ナーシャ
「大変ですね。」

レイ
「あぁ。」

ナーシャ
「では、パーティリーダーはどちら様で?」

レイ
「俺で文句ないか?」

クロエ ゾーイ メル
「ない。」

レイ
「はぁ....」

やる気があるんだかないんだか分からないパーティだった。

ナーシャ
「では、サブリーダーは、」

レイ
「ゾーイ。お前やれよ。」

ゾーイ
「ああ。」

ナーシャ
「ではこのゴレアリア大国で冒険者登録を完了しました。楽しそうなパーティですね!」

メル
「楽しいよーう!」

ナーシャ
「あはは。可愛いいお耳ですね!」

どう見たって同じような耳をしていた。

ナーシャ
「では、皆さんにこの指輪をつけていただきます。」

銅で作られた指輪だった。国旗のマークが刻まれてある。
付けると自動に大きさにはまるように魔法がかけられてあった。

ナーシャ
「皆様は初めて冒険者登録をしましたのでEランクのブロンズからスタートです。任務もE、Dのランクのものをオススメいたします!担当したばかりの子猫ちゃん達がすぐ死ぬのは悲しいですからね!」

クロエ
「子猫だってさ!あはは」

クロエは皆よりツボに入るところがおかしいのがまた昔から変わらない。

ナーシャ
「任務はE〜Sランクあり、下から簡単で上に行くにつれ討伐の難易度が難しくなったり暗殺任務となります。任務をこなすとランクも上がっていきますから頑張って下さいね!」

ゾーイ
「ブロンズのEでもSランクの任務は受けれるのか?」

ナーシャ
「はい!でも死にますよ?」

少し怖い表情で伝えた。

ナーシャ
「Eはブロンズ、Dはシルバー、Cはピンクゴールド、Bはゴールド、Aはプラチナ、Sはオリハルコンとなります。」

クロエはナーシャの小指を見た。

クロエ
「ナーシャさんはCランクなんだね!」

ナーシャ
「はい!冒険者ギルドで働く者は皆Cランクからになります。皆さん、あちらの大きな掲示板を。」

4人は大きな掲示板を見た。

ナーシャ
「あちらの掲示板は任務板と言って毎日入れ替わるように任務の張り紙が貼られます。その紙にはランクが指定されておりその紙を持ってこちらにお持ち下さい。どう?簡単でしょ!」

レイ
「任務が完了したとかどうやったら伝えればいいんすか?」

ナーシャ
「こちらの袋を。」

大きめな茶色の革袋だった。

ナーシャ
「採取任務なら採取するものを討伐任務なら指定された生き物の耳をこちらの袋に入れてお持ち下さい。耳以外もアクセサリーの材料や鉄の材料、石の材料など入れてお持ちいただければそれに見合った報酬をお渡し致しますよ!」

ゾーイ
「なるほどな。」

ナーシャ
「それとこの薬も。」

置かれたのは細長い瓶に入った黄色の液体。

メル
「エーテル?」

ナーシャ
「止血剤でございます。身体にも使えますが出来れば討伐した生き物の耳を切った後にご使用頂ければ袋の中が血塗れにならないですみますから。あはは」

メル
「たまに怖いこと言うね、お姉さん。」

クロエ
「あははは」

レイ
「てめぇはどこで笑うところがあった!!」

ナーシャ
「では、今から任務を受けますか?」

ゾーイ
「いや、できれば宿を探したい。まずこの荷物をどうにかしなきゃな。。」

レイ
「だな。ナーシャさんこの近くで安い宿ないっすか?」

クロエ
「レイ、この地図あげるよ。」

2枚の地図を渡した。

クロエ
「私よりレイが持ってた方がいいよ。」

レイ
「サンキュな。」

ゴレアリア大国の地図を広げた。

ナーシャ
「それなら、このへんだと眺めもよく宿も安いですよ。この辺はあまり治安が良くないのでオススメしません。」

レイ
「助かるっすわ。んじゃいきます。」

メル
「明日から本格的に始まる感じだね!」

ゾーイ
「宿探したら飯食おうぜ。腹減った。」

クロエ
「そうだね、お腹すいた。」

にゃ?!

レイ
「お前さっきなんか食ってなかったか?」

クロエ
「ご飯とお菓子は別だよ!」

そう言いながら冒険者ギルドをでた。

ナーシャ
「あの子達、大丈夫かしら?」

地図を見たら海に面した街だった。

レイ
「てかこの国広すぎねぇか?街何個あるんだよ。」

ゾーイ
「今はこの辺りだな。」

歩くと人がそこまで多くない所まで出た。
店も少なくなってメインストリートから外れて路地の多い場所だった。

レイ
「この辺から探すか。」

メル
「あれなんかどう?」

かなり装飾された入り口でいかにも金持ちが入りそうな宿。

ゾーイ
「あれはだめだ。報酬も高い高ランクの冒険者用の宿に違いない。他行こう。」

クロエ
「あれは?」

一階建の家で窓は割れて屋根の板は外れぶら下がっていた。

レイ
「冒険者をなんだと思ってんだあの店。クロエもふざけてんのか?俺らは豚か?」

クロエ
「豚だってさ!あはは」

4人は海に沿いを歩いた。

メル
「もう歩けないよ〜」

ゾーイ
「置いていくぞー」

レイ
「なあ、あの宿結構いいんじゃないか?」

海沿いにある2階建の少し古臭く赤いペンキで塗られた建物は塩風で少し痛んでいた。
ただ入り口はしっかりしており横の広めの庭にはベンチも置かれていた。
金色の蜂型に「ハニー・シー」と文字が塗られていた。

クロエ
「名前も可愛い!行ってみよう!」

レイ
「おじゃましまーす」

ロビーは古民家チックで広々しており、丸い机が3つに可愛い風呂敷。そしてテラス席も用意されて景色は海一面に見渡せていた。ドア、窓は全部開いていた。

「いらっしゃい!客たあ珍しいね。」

耳が長く身長もクロエの腰までしかないホビット族のガッチリした体型の髭で口が覆われた男性だった。

レイ
「2部屋お願いしたいんすけど空いてます?」

「空いてるぞ。おーい!客だあ!」

カウンターの後ろから奥さん、そして小さな女の子が出てきた。
ホビット族の子供は5歳くらいの小さな小さな女の子だった。

「わしはここのオーナーのゼフだ。こっちは女房のゼラ、こっちは娘のターナだ。」

4人も挨拶をした。

「案内するわよ!ほら!」

レイ
「1泊いくらです?この国にとりあえず滞在しようと思ってるんすけど」

「1部屋1泊1シルバーと20銭だ。」

ゾーイ
「安いな。この国はそんな物価安いのか?」

「兄ちゃんたち、よそ者か?なら知らねえだろうな。この国は冒険者は少ないんだ。だから宿はどんどん畳んじまってんのさ。あっても高級な高ランク向けの宿ばかりさ。」

メル
「どして?」

「あの山を見てみろ。あの鉱山で炭鉱、鉱石が掘れるんだ。冒険者なんてやめて採掘士になってこの国に留まった方が楽だからだよ。だから宿屋は商売ガタ落ちなのさ。」

レイ
「だから久しぶりの客ってわけね。とりあえず部屋見してもらっていいっすか?」

「おう。ついて来い!お前。茶でも準備しとってくんな!」

奥さんは喜んでキッチンに向かった。

ホビット族にはしんどそうな急な階段を上り広々とした下を見下ろせるロビー。その先に2部屋あった。

メル
「え、もしかして2部屋しかないの?」

「ゼェゼェ....文句あるか?」

レイ
「貸切になって逆にいいじゃないか。」

ドアを開くと2つのベッドに外に飛び出した大きな窓にスペースが設けられ2人座れる形となっていた。
インテリアもこだわり綺麗に掃除もしていた。

クロエ
「え、凄い!いい!」

「ゼェゼェ....もう一個の部屋も同じ造りだぞ。」

メル
「まだ疲れてる....」

レイ
「おっさん。ここにしますわ。」

「おうよ!荷物置いたら降りてくんな。」

女子部屋、男子部屋とわけそれぞれ荷物を下ろし1階に向かった。

「こっちが風呂だ。お湯も出るぞ。ドア壊れてっから鍵はかかんねーぞ。」

外の風呂場のそばには暖炉、簡易キッチンに鍋、洗濯用の物干し竿まで完備していた。これ以上にないくらい十分な宿だった。

クロエ
「おじさん!ここすごくいいよ!可愛いし!」

「褒めてくれたって安くしてやんねーぞ。」

ゾーイ
「もう安いからいいよ。」

ゼラ
「みなさん。お茶出来ましたわよ。」

1階のロビーに紅茶とパイが配られた。

ゼラ
「朝食もご用意致しますのでごゆっくり。」

メル
「朝食付き?!やば!!」

レイ
「とりあえず休んだら今日は街を探索だな。」

机の上に紅茶とパイを避けて地図を広げた。

レイ
「とりあえず武器、防具が揃う鍛冶屋、薬屋に病院を探そう。」

クロエ
「本屋にも行ってみたいな。」

メル
「情報がもらえるここから一番近い酒場も探さなくちゃね!」

ゾーイ
「お前、呑みたいだけじゃねーのか?」

メル
「違うもん!」

レイ
「お前ら、いくら持ってきた?」

クロエ
「15シルバーだよ。」

メル
「9シルバー....」

ゾーイ
「20シルバー」

レイ
「俺は25だな。全部合わせても69シルバー。昼、夜飯で2ヶ月も持たずに俺らは野垂れ死ぬぞ。
キール村みたいな生活はもう出来ないんだ。とりあえず報酬が増えてランクが上がらないとこの貧乏生活から抜け出せねぇ。」

メル
「それは無理!無理!無理ー!!!」

クロエ
「どうしようどうしよう...」

レイ
「メルとクロエ、無駄遣いするな。みんなの金でもあるからな。」

クロエ
「お菓子もダメ?」

レイ
「お前はお菓子がダメなんだ。そこらで木の実食ってりゃいいだろ。」

クロエはしゅんとなった。ルナがクロエのほっぺを舐めて宥めてくれた。

レイ
「明日は簡単な任務から受けて行く。その任務で食えるもんは持って帰る。幸い水はここの水道で賄えるからな。」

クロエはバミリオ王からのお金を断ったのに少し後悔した。

ゾーイ
「出来れば討伐任務がいいんだが。」

メル
「どして?」

ゾーイ
「この短期間でお前らがどれだけ強くなったか知らねえ。どう戦闘するか見ておきたい。それによってチームワークが変わってくるからな。」

レイ
「ゾーイの言うと通りだ。明日は討伐、採取どちらも受けて行く。とりあえず街を探索しにいくか。」

レイは立ち上がった。

4人が向かったのはメインストリートから冒険者ギルド近くの武器屋だった。メルーン王国の武器屋と違い鍛冶屋も備え付けられていた。正面の建物は防具屋。

レイ
「とりあえずこの街一番の鍛冶士がここにいるらしいな。」

クロエ
「中に入らないの?」

レイ
「俺ら武器があるからな。とりあえずの装備はあるし地図にマークを付けるだけ付けとこう。次は病院だ。」

ゾーイ
「ゴレアリア王国の中心部が冒険者ギルド、武器屋、防具屋だとすると西に病院があるらしいな。」

地図を見ながらゾーイは言った。

クロエ
「この国広すぎない?」

メル
「任務で国から出るだけでも十分な旅になりそう。」

「おーあんたら端くれ冒険者かい?」

武器屋の側の立ち飲み酒場の店主が外の花に水をやっていた。

レイ
「端くれというか冒険者になったばかりというか」

「あんたら転移魔法知らんのかぇ?」

ゾーイ
「なんだそれ?」

「この大国を徒歩で一周するだけで1週間はかかるぞ。あの鉄で出来た塔があるだろ?あの塔に行くといい。」

避雷針かと思っていた塔だった。
4人はその高い塔に向かった。

クロエ
「確かに海から見たらあの避雷針5本くらいあったの見た。」

ゾーイ
「お前、よくそこまで見てたな。」

高い塔は鉄骨で出来た何か。
そばには魔法陣。
衛兵が1人立っていた。

衛兵
「冒険者の方ですか?」

レイ
「そうっすけど....ここはなんすか?」

衛兵
「初めてのご利用ですね。この塔は転送陣と言ってこの大国に5つ存在します。いわゆる冒険者のためだけの転送移動みたいなものですよ。」

ゾーイ
「すっげぇ。」

衛兵
「大きな国ほど転送陣は存在します。地図は持っていますか?」

レイは地図を取り出し衛兵はその転送陣の場所を印を付けてくれた。

レイ
「北、南、西、東、冒険者ギルド内の中心部って感じだな。」

衛兵
「魔法陣に入り、行きたい場所を唱えますとその場所に転送致します。あっ1人が唱えればいいですよ。簡単でしょう。」

クロエ
「病院近くに行ってみよう。」

衛兵は4人魔法陣に入って急いだように言った。

衛兵
「言い忘れました。初めての方は少し酔う方がいらっしゃいますのでくれぐれも気をつけてください。」

メル
「はーい!」

レイ
「西へ。」
メル
「東へ!」

ゾーイ
「おいおいおいおいおいおい!!」

クロエ
「メルメルメルメルメル!病院は西!!」

メル
「うそ?!やばい!!」

光を発し4人は消えた。

衛兵
「今2人唱えた?!え、うそ!.....まあ何も見てないことにしよっ。」

衛兵は食べかけのサンドウィッチを食べながら新聞を読み始めた。

シューンッ

パッ!!

レイ
「ここは西か。」

クロエ
「ねぇ、今メル東って言ったよね?」

レイ
「ああ。....っておい!俺らだけか?!」

クロエ
「....ってえええええ!!誰もいない!!」

ルナ
「にゃぁあああ....」

クロエ
「ルナ?!大丈夫?!ルナがルナが!!」

レイ
「目回っただけだろ。」

クロエ
「ルナああああああああ!!あとゾーイとメルはどこよおお!!」

レイ
「ゾーイとメルはついでかよ。」


東サイド

シューン

パッ!!

メル
「やばいやばい。東って言っちゃった。」

ゾーイ
「病院は西なんだが。それに引っ張られる感じがした。」

メル
「もう一回!もう一回乗るわよ!」

衛兵
「すみません、冒険者様、転送陣で転送を行ったら1時間は転送出来ません。」

メル
「はあああああああああ?!」

ゾーイ
「やってくれたな。」

メル
「なんで病院は西なのよ!東じゃだめなの?!」

ゾーイ
「お前、ろくな育ち方してねーだろ。まずお前が間違えたことに問題があるんだろ。」

メル
「何よ!私が悪いっての?!」

ゾーイ
「当たり前だ!引っ張られて西と東で俺の身体が半分になってたらどうするんだ!」

メル
「頭だけ東にあればいいのに。」

ゾーイ
「んだとゴルァ!頭無くてもてめぇをボコボコにしてやるわ!」

メル
「やってみなさいよ!私の魔法であんたなんか焦げて野垂れ死ぬのがオチよ!」

ゾーイ
「.....杖は?」

メル
「ないないないない!どこにもない!!」

ゾーイ
「俺の大剣もないぞ!」

メル ゾーイ
「どこだあああああああああああ」



西サイド

カランッ

クロエ
「ん?」

レイ
「これメルの杖とゾーイの大剣じゃん。待ってればそのうち来るだろ。」

クロエ
「それもそうだね。」

衛兵
「すみません、冒険者様、次の冒険者様がお待ちなので.....少し陣から離れてもらっても....」

レイ
「仲間とはぐれたんだ。」

衛兵
「転送中にはぐれたんですか?」

クロエ
「うん。」

衛兵
「あなたたちよく四肢がありますね。お仲間たちも四肢付いてるといいですね!あと転送後はおよそ1時間は再転送出来ません。さあ、どいてください!」

レイ
「今なんていった?」

クロエ
「四肢があればいいねって。」

レイ
「そこじゃない。」

クロエ
「1時間は再転送出来ないって。」

レイ
「....クロエ。こっちには地図がある。病院に行くか。」

クロエ
「それもそうだね。杖と大剣どうする?」

レイ
「俺大剣持つよ。クロエはメルの杖持ってくれるか?」

クロエ
「いいよ!」

2人は病院へ歩き出した。
メインストリートとは違ったまた違う風景でカラフルな建物とは違い岩でできた建物ばかりだった。

クロエ
「レーイ!!おそーい!!」

レイ
「この....大剣クッソ重いんだよ!!あいつどれだけ重たいもん背負ってんだ!」

クロエ
「あっ」

手紙のマークの建物が建っていた。
送達屋だった。

クロエ
「レイー!ごめん、ちょっと手紙出してくる!」

レイ
「ああ。」

レイは疲れ果て道端で座り込んだ。

クロエ
「すみません、これをお願いします。」

受付
「はいよ〜。メルーン王国とキール村?キール村ってのは聞かないね。」

クロエ
「田舎の方なんで。。」

受付
「んじゃ確かに受け取ったよ。ここにサインとゴレアリアに滞在するならここにサインしといてー。それと国から出る時もここ送達屋に来てくれやー。」

クロエ
「わかりました。」

受付
「んじゃ、10銭頂くよ。」

クロエ
「レイお待たせ。」

レイ
「おう。」

クロエ
「なんで手紙出すだけであんなに高いのかな。」

レイ
「お前、知らねぇの?」

クロエ
「ん?」

レイ
「送達士ってのは一人で歩きどんな危険を伴うか分からないこの世で一番危険な仕事だって言われてんの。戦闘にセンスがあるやつは王に仕えるか送達士になるらしいぞ。」

クロエ
「マジ?!そんな凄いの?」

レイ
「貴族並みに稼げるらしいが家なんてないしそもそも犯罪者が多い。」

クロエ
「犯罪者って....普通そのまま逃げちゃわない?」

レイ
「何か逃げれないような呪文かされてんだろ。」

クロエ
「そうなんだ〜。」

レイ
「さ。行くぞ。」

クロエ
「うん。」



東サイド


ゾーイ
「うおりゃあああああああああああ!!」

メル
「うひょー!早ーい!!」

片手でメルを担ぎ街中をゾーイは砂埃を上げながら全速力で走っていた。

メル
「ちょっ!パンツ!!パンツ見えちゃう!」

ゾーイ
「うるせぇ!!黙ってろ!!」

ゾーイ
「西はどっちだああああ!!」

メルは担がれながら後ろ向きで地図を広げていた。

メル
「後ろ向きじゃわかんない。曲がりたい時後ろ向いてくれる?」

ゾーイ
「あああ!!もお!!」

くるっ

メル
「そこの角右。」

くるっ

ゾーイ
「うおりゃあああああああああああ!!」

メル
「いたいたいたいたいた!!そこの公園!」

そこには公園でゾーイの大剣を地面に突き刺してクロエとレイは背もたれにして休んでいた。

ゾーイ
「あいつらああああ!!!ぬおおおおおお!!」

ブオオオオオ!!!


レイ クロエ
「!!」

ゾーイ
「お前らああああ!!俺の大剣を背もたれにしてんじゃねえええぇえ!!」

ゾーイ
「はぁ.....はぁ.....」

レイ
「赤だな。」

クロエ
「赤だったね。」

メル
「うっるさいわね!!見ないでよ!ほら!下ろして!!」

レイ
「随分早かったな。」

メル
「んもぉ〜。」

メルは少し顔が赤くなっていた。

ゾーイ
「はぁ....これからは....はぁ....誰かが....はぁ.....一人だけ....くあっ....唱えることを....」

レイ
「わかった。わかったからお前は休んどけ。」

クロエ
「あははは」

4人は公園で少し休み西の病院、北の王都まで足を運び地図に印を付けた。

レイ
「そろそろ帰るかー、」

すっかり夕方になってしまった。

ゾーイ
「サニー・シーは?南か?」

4人は転送陣に乗った。

クロエ
「2人で違う方角言ったらああなったけど4人でそれぞれ違う方角言ったらどうなるのかな。」

メル
「さっき衛兵に聞いた話酔っ払った冒険者が5人乗ってそれぞれ違う方角言ったら皆身体中バラバラにされて転送されたんだってさ。たまにそんな事故を起こすみたい。あはは」

ゾーイ
「お前、俺らを殺す気か。」

レイ
「俺が唱える。.....(南へ)」

シューン

パッ!!


サニー・シーにてそれぞれ部屋に戻った。

レイ
「クロエとメルも風呂上がったみたいだぞ。俺先風呂入るわ。」

ゾーイ
「ああ。」

ゾーイは大剣を念入りに磨いていた。

ガチャッ

2階のロビーにはお風呂上がりで濡れた髪を乾かす2人の姿。2人して似たようなワンピースに着替えていた。

クロエ
「あ、レイ!いいお風呂だよ!湯加減も最高!でもドアは勝手に開くからたまに手で閉めてね!」

メル
「風呂場の前で突っ立ってたら私たちの裸が見れたのにザンネーンっ」

レイ
「黙ってろバカ!」

レイはすぐに風呂場に向かった。

クロエ
「お腹すいたなー。」

メル
「だねー。」

クロエ
「この宿って夜食あるのかな?」

メル
「ゼフさんに聞いてみよっか!」

ゼフ
「夜食かー?」

2階のロビーの声が聞こえたのか下からゼフは見上げて叫んだ。

クロエ
「そうそうー!」

ゼフ
「ゼラから聞いてねぇのかー?今日はご馳走するったってもう準備出来てんぞー!」

クロエ
「え?!マジ?!」

メル
「やばっ!ゼフさんありがとうー!!!」

クロエ
「ゾーイ!!部屋から出てきて!ゾーイ!」

ゾーイ
「んだよ。」

メル
「今日はご馳走してくれるってさ!」

ゾーイ
「おお。今レイ風呂行ったぞ」

メル
「何の料理かなぁ。やっぱ海鮮料理かなぁ。」

クロエ
「もう何でもいいよぉ〜お腹すいたー。ルナもそう思うだろぉ〜。」

ルナ
「んにゃあーおぉ」


ゼラ
「冒険者たちー!ご飯できたわよー!降りてらっしゃーい!!」

メル
「やった!」

クロエ
「行くぞっ!」

ガチャ

レイ
「なんだ?」

濡れた髪を手ではたきながら外から出てきたレイ。

ゾーイ
「今晩はご馳走してくれるんだってさ。」

レイ
「うおっ?!マジか!!すぐ行く!」

ゼラ
「今日はご馳走よ〜っ」

ターナ
「わーい!わーい!」

ゼフ
「こらこら、はしゃぐんじゃないよ。」

机にはサラダに紛れた昆虫のフライ、どっぷり太った芋虫が串刺しで焼かれメインディッシュには皿いっぱいに盛られた羽の生えた虫。幸い虫無しのスープ、普通のパンがあった。

レイ
「お....おい....」

メル
「ホビット族は虫が主食?!」

ゾーイ
「知るかよ。」

3人は小声でヒソヒソ話し合っていたとは違い1人嬉しそうな顔をして食卓を眺める女の子。

クロエ
「うわぁ〜どれも美味しそう!ほら!座ろうよ!」

レイ
「あ....あぁ。」

ゼラ
「さあ、乾杯しましょう!ゴレアリアのお酒は初めて?」

ゼラは赤く染まったお酒を樽ジャッキに注いだ。


メル
「赤い?!こんな飲み物は初めて見たかも。」

ゼラ
「ゴレアリアにはこの潮風でトマトが美味しく育つのよ。トマト酒よ。レッドエーテルとも言われてるわ。」

ゾーイ
「エーテル?!」

ゼフ
「魔力が高まるわけないさ。ただ、魔力が高まるくらい美味しく漲るってやつさ。とりあえず乾杯するぞ。」

皆で乾杯し、レイ、メル、ゾーイはパンとスープのみ頬張った。
クロエはというと何でもかんでも美味しそうに食べた。

メル
「多分この子どこ行っても生きていけると思う。」

ゾーイ
「俺もそう思うよ。」

ゼフ
「お前らどうした?パンばかり食べて。食べないのか?」

レイ
「いや....俺らの出身の所は虫は食べちゃいけない宗教なんですよ。あはは」

メル
「そ...そうなんです,...」

ゼフ
「そうか?でもこいつは食ってるぞ。」

ゾーイ
「こ....こいつは信じてるもんが違うんです。そ...そうだよな。」

レイ
「そ....そう!そうなんすよ!」

クロエ
「ん?」

レイとメルとゾーイはひたすらパンとスープをおかわりし続けた。

ゼラ
「クロエちゃんいい食べっぷりね。ほらいっぱいあるわよ!」

ターナ
「僕も!僕も!」

ゼフ
「大勢で食うと旨いわい!」

クロエ
「ルナはミルク貰ってよかったね!」

ルナ
「にゃあ!」