パッと目が覚めた。

(またあの夢か.....)

ドアが開いた方向を見るとママが笑顔でおはようといった。

クロエの髪をクシでとかしてくれる。
腰まで伸びた長い髪は朝日に照らされて壁には赤い光が差し込んだ。

ママ
「見てごらん、クロエ。髪に反射して壁が赤く染まったわよ。」

クロエ
「ママー?昨日も見たよー?」

ママ
「あら、そうだったかしら。」

ママとクロエはお互い困ったようにクシャッと笑った。
あの活発で元気なクロエは14歳になった。
今でも活発で元気だが鼻はスラッと高くなり目は相変わらずママ似の猫目でクリッと大きく胸も少し膨らみママと同じくらいの身長になり村一番の美少女となった。

タンスの中から黒のワンピースを手に取り腰に茶色のベルトをしスカートの丈を膝上まであげた。



リビングに行くとクロエは昔から変わらずホットミルクをクッキーに付け朝食を済ませた。


クロエ
「ママ!行ってくる!」

ママ
「気をつけていってらっしゃい。今日はなんの日か分かる?」

クロエ
「私の15歳の誕生日!だからキール村に買い物に行くんでしょう?」

ママ
「ただの誕生日じゃないのよ。成人になるのよ。」

クロエ
「分かってるってー!早めに帰るよ!んじゃいってくる!」

ママ
「んもう。」

庭ではパパがテラスでタバコをふかしていた。

クロエ
「パパー!行ってくるよー!」

パパ
「お、そうだ、クロエ。お前も今日で成人だ。これを持って行きなさい。」

パパがクロエに渡したのはいつもパパがタバコに火を付けるマッチ箱サイズの鉄道具だった。

クロエ
「これいつもパパがいつも使ってるやつじゃん。え、私タバコ吸わないよ?」

パパ
「分かってるさ。これはパパの魔道具だよ。ほらこの後ろに穴があるだろ。ここから油を入れるんだ。油が着火し火がつくという仕組みだ。そして軽く握って心の中で唱えるんだ。「火を灯せ」と。」

パパは魔道具を人差し指、親指で持ちやって見せた。


クロエ
「火が付いた。パパって属性は火なの?知らなかった」

パパ
「ほら、お前もやってみろ。」

クロエも同じように指で持ち心の中で唱えた。
「火を灯せ。」

ブオオオオオオオオオ!!

どす黒く紫色の炎が勢いよく着火した。

パパ
「ぬおおおおおおおおおおお!!」
クロエ
「ぎゃああああああああああ!!」

パパ
「水!水!水!」

パパは庭にあるバケツでクロエごと水をぶちまけた。

シュウ...

クロエ
「パパ...こんなの要らない。」

パパ
「少し訓練が必要だな。ほら、一度...着替えてこい。....な?」

クロエはくしゃみをしながら家に戻った。
そして黒のワンピースから黒のワンピースに着替えママにまたクシでとかしてもらってまた庭に戻ってパパを睨みつけた。

パパ
「格好も色も変わってないぞ」

クロエ
「うるさい。」

パパ
「まあそう怒るなよ。お前魔法使いになりたいって言ってただろ?この魔道具で訓練が出来るぞ。」

クロエ
「どうやってよ!!」

パパ
「自分の魔法の力量が分かってないだろ?思いっきり何も考えずに唱えるとさっきみたいになる。魔法の調節をうまく出来るよう訓練したまえよ。じゃあな。」

パパは裏庭の地下に戻った。

クロエ
「いつか燃やしてやる...」

クロエはカゴを持ちキール村へ歩いた。

カゴの中のメモを見た。

(ママ...こんなに買うの?!すごい量だよ...持ちきれるかな...)

そこが一番の心配だった。

キール村に到着した。
小さな時はあんなに遠く感じたのに今となってはすぐ着く事に気づいたクロエは自分の成長の早さが怖かった。

「お、クロエ買い物か?」

魚屋のおじさんだった。

クロエ
「カイおじさん今日は魚は買わないよ!」

少し落ち込んだカイおじさんはクロエにまたなと挨拶して大声で安売りだと叫んだ。

クロエは肉屋の屋台に向かった。

クロエ
「メラルヤおばさん!今日安いお肉ある?」

「おや、クロエちゃんじゃない。大きくなって私みたいにべっぴんさんなってからに!」

クロエは少し苦笑いをした。

「今日のお肉はヤギが安いよ!」

クロエ
「じゃあ塊で下さーい!」

「おや、今日は祝ごとかい?」

クロエ
「私の誕生日だよ!」

「それはめでたい事だ!ほら!もう一つ塊持っていきな!これはおばさんからのプレゼントだ」

クロエ
「ありがとう!おばさん!でも持ちきれないよ」

「よークロエ。俺が持ってやろうかー?」

後ろから声がした。
クロエより身長が高くなり筋肉質になり黒い髪は長く後ろで結んでいた。
レイだった。

レイ
「今日はお前の誕生日だろ?食材買いに来たなら俺が持ってやるよ。」

クロエ
「レイ!ありがとう!」

クロエは空のカゴだけ持ち肉の塊2つはレイに託した。

レイ
「おい。どっちか持てよ。」

クロエ
「おばさんありがとう!また来るね!」

そそくさに行くクロエの後をレイはしぶしぶついて行った。

クロエ
「次は...蜂蜜酒」

レビィ
「蜂蜜酒ならバテルがおすすめだな」

キール村で取れる蜂蜜酒は全大陸でも有名で平民や兵士は皆この蜂蜜酒を知ってるくらい美味。瓶のラベルには「BATEL」というオレンジ色の文字。


クロエとレイは村のはずれにある大きな看板にたどり着いた。
蜂蜜酒の工房にある直売店のドアを開いた。

ネラルバ
「いらっしゃい〜。おークロエとレイの坊主かー」

クロエ
「ネラルバさん久しぶりだね!蜂蜜酒もらえる?」

ネラルバ
「クロエが蜂蜜酒買いに来るってことは今日で成人の日か!いつの間にそんなべっぴんさんになりやがって。で、何本いるんだ?」

クロエ
「2本瓶でくれる?」

ネラルバ
「あいよ!1本おまけに付けといてやる。持っていきな。」

クロエ
「ありがとう!ネラルバさん!」

ドアを開け出た所に大声でクロエを勢いよく抱きしめた。

メル
「クロエー!誕生日おめでとう!今日はいい日だね!」

クロエ
「メル?!」

大きな耳、細長くふさふさの尻尾の先端には銀色のアクセサリー。クロエよりもわんぱくでいつも動きやすい服装だが胸が大きくなりすぎ胸元はチャックが閉まらないシャツにお腹を出した服装、ミニスカートばかり履いている。

メル
「誕生日だから駆けつけたの!ゾーイも一緒だよ!」

ゾーイ
「よおークロエ。誕生日おめでとう。」

人間族の男の子でゾーイ=ラジリアもキール村出身で4人で良く遊ぶ仲。ゾーイはいつもレイと釣りしている金髪に短髪が印象でクールに見えてレイといつも一緒につるみ、笑っている。

レイ
「おーおー今日も元気に胸が揺れんぞ。」

メル
「うるさいよ、バカ!」

ゾーイ
「見たところ食材買いに来たんだろ?次何買うんだよ。」

クロエはメモを見た。
「次は...野菜だね!」

メル
「メルたち暇だしついていくよ!」

気がついたら4人で買い物をすることになった。

4人それぞれ大量の食材を手に持ち疲れ果てていた。

クロエ
「ちょっと休まない?荷物持ってくれてるし奢るよ。」

メル
「わー!いいのー?さんせーい!」

レイ
「しゃー!」

ゾーイ
「んじゃエールウッドに行くか」

エールウッドはキール村唯一の酒場で昼間は酒以外にも珈琲や紅茶まで楽しむことができる。
そこまで大きくなく、店の壁には蔓が生い茂っていた。


カランッ

店の中に入ると村人数人が何気ない会話したり珈琲を嗜んでたりしてた。

カリア
「いらっしゃーい。いつもの4人でいつもの席ね。」

カリアはオレンジ色の髪の人間族で4人より5つ年上のお姉さん。緑のドレスを着て接客しやすいように袖をまくり、腰にはエプロンをしていた。

レイ
「やっぱこのテラスが気持ちーな。」

クロエ
「だね!」

テラスは店の丁度真裏にあり崖に無理矢理とっ付けたようなテラスだが海を見渡せ、絶景になっていた。
小舟が何隻か浮いており魚を取っている村人も数人いた。
テラスは一人も客はいなかったので皆重たい荷物をどさりと置いた。

カリア
「んで、何にする?」

レイ
「エール!」

クロエ
「朝からエール?!」

レイ
「悪いかー?」

メル
「まあ、成人したてって呑みたがるのよね」

メルとクロエはフフッと笑った。

ゾーイ
「んじゃ俺もエール!!」

クロエ
「多分今日は成人お祝いで飲まされるだろうからでバターバテルで...」

カリア
「あら、クロエもう成人?!早いわね!」

クロエ
「今日で何回言われただろ、そのセリフ...」

メル
「そいえば私たち同い年なのにクロエが一番遅く産まれたのね。あっメルもバターバテルで!」

カリアは注文をとり店内のカウンターに行き作り始めた。
バターバテルとはキール村で取れた様々な果物を絞り炭酸で割り、泡立てたバターを上に添えた飲み物で見た目はエールそっくりだが酒ではない。


クロエはテラスの柵に前屈みで海を見つめ呟いた。

クロエ
「海っていいなぁ〜。」

レイ
「クロエは昔から海を見るのが好きだもんな。」

クロエ
「だってどこまでも海ってあるんだよ!いつか海を旅してみたいなぁー」

ゾーイ
「やっぱ俺らって村を離れ色んな所を行ってみたいってのが共通してるんだよな。」

メル
「と、言いますと?!」

ゾーイ
「つまり....」
カリア
「はーい。お待ちどうさま〜。」

遮るようにカリアは机に飲み物を並べ、店内戻った。
レイは掌サイズの小樽にパンパンに入った自分のエールを片手に持ちこう言った。

レイ
「いいこと考えた。ほら、お前ら飲み物を持て。」

3人はレイの言うことを従いそれぞれ飲み物を持った。

レイ
「ゾーイ。俺ら一緒に旅をしよう。ってことだろ?」

ゾーイ
「ああ。パーティを組んで共に旅をするってことだ。」

メル
「なにそれ。楽しそう。賛成!じゃあ私はこの世で一番強い女の魔道士になる!」

レイ
「俺は四剣の一振り。剛炎の剣を探す旅へ!」

ゾーイ
「俺は旅してどっかの国の王様になりてぇ。」

メル
「それ旅して王様ってなれるもんなの?」

ゾーイ
「どっかの老人の王様助けてわしの代わりに王様に...ってなるかもしれないだろ!!」

レイ
「身分が違いすぎるんだよ。まあなるようになればいいな。で、クロエは?」

....


3人はクロエを見た。

レイ
「んで、お前は?」

クロエは笑顔になり、手に持ったバターバテルをかざし大声で叫んだ。

クロエ
「3人の願いが叶えばそれでいい!!!」

ゾーイ
「なんじゃそりゃ。。」

ゾーイ
「お前は海はいいなぁ〜。とか言ってたからてっきり海賊にでもなるのかと...」

レイ
「こいつが海賊になるわけないね。まあクロエらしいよ。とりあえずパーティ結成を祝して.....かんぱーい!」

レイ クロエ メル ゾーイ
「かんぱーい!!」

一気に飲み干し、口の上には4人共泡が付いていた。
4人のパーティはここエールウッドのテラスで結成した。