戸惑う結芽を置いて、店を出る。


真っ直ぐ帰ろうかと思ったけど、真宙と話がしたい気持ちもあった。


自分の部屋で、真宙の帰りを待ってもよかった。


でも、私に隠れてあんなことをしていた真宙が、私の家に来るとは思えない。


真宙の家の合鍵は持っているけど、真宙が帰ってくる保証もない。


そういうわけで、私は店の出入り口が見える場所で真宙が出てくるのを待つことにした。


そこは、街灯もない小さな公園だった。

昼間は子供たちの元気な声が響いているのだろうが、月明かりに照らされるそこは、沈黙に包まれている。


明かりがなければ勉強はできない。

この暗い中でスマホを触る気もない。


夜に闇を落とした要因である空を見て、真宙が出てくるのを待つ。


雲が流れ、暗闇の中で輝く月を隠しては置いていく。


星は見えるが、天文の知識がないため、星座などわからない。


雲と同じように、静かに時間が流れていく。


これほどなにもしない夜は、大学生になって初めてかもしれない。


いつも、予習に復習、そして課題に追われているから。


静かに過ぎていく時間も、案外悪くない。


そう思っていたら、この静けさに不釣り合いな笑い声が聞こえてきた。


私は店の出入り口に視線を移す。


騒がしい集団の中に、真宙の姿があった。


私には見せたことのない楽しそうな笑顔で、輪に混ざっている。


聞きたいこと、話したいことは山ほどあるのに、真宙のその笑顔を見た私の足は、動くことを知らなかった。


真宙たちがどこかに行ってしまうのを見送って、私は家に戻った。


室内は、公園で見たのと同じ暗闇。


だけど、あの不思議な温もりのようなものは一切ない。


溢れたのは、涙だった。