正面切っての戦争にはならないと思う。それは、ファブリスをこちらに取り込んでいるからという理由もあった。ふたつの国を一度に相手にするのは分が悪い。

(――離縁して、ハルディール夫人を国に戻す……とか、そういった話になっているのかしら)

 ハルディールにしてみれば、嫁ぎ先の国で冷遇されるくらいならば、自分の国に帰りたいのではないだろうか。やはり、ロニーを残しておいてよかった。

「……あと、これなんですけど」

 ロニーが差し出したのは、アンドレアスのところに届いた手紙の写しだそうだ。本物は、さすがに持ってこられなかったらしい。

「こんなものどこで手に入れたの?」
「お嬢さんの前で口にしたら、嫌な顔をされる方法で」
「嫌な顔なんてしないわよ。私がお願いしたことだもの」

 ロニーを残したのは、身が軽いから必要とあればどこにでも忍び入って調べてくれるだろうという期待からだった。彼はその期待を裏切らなかった。
 どういう手段でやりとりをしたのか、前皇妃であるハルディール夫人とアンドレアスのやりとり。幽閉中の身を嘆くハルディール夫人は、母国に帰りたいとアンドレアスに訴えていた。