「お兄様が、他の女性と結婚しても?」
「……それは、嫌……です……」

 それは、長い沈黙ののち、ため息のように吐き出された。ヴィルヘルムが他の女性と結婚するなんて、考えたこともなかった。
 だが、今回、ルイーザはレオンティーナが考えてもいなかったところに嫁ぐことになった。未来は、どんどん変化している。ありえない話ではない。

「もう、そんな悲しそうな顔をしないでよ。私が悪者みたいじゃない」
「そんな顔をしたつもりはないのですが」
「じれったいわね、あなた達……立場的になかなか難しいだろうっていうのも、私だってわかってはいるけれど」

 ルイーザの決意は応援したい。けれど、自分とヴィルヘルムのことになると、どうしたらいいか想像するのさえ怖かった。
 

 ◇ ◇ ◇

 

 それからさらにひと月ほどが過ぎ――風が冷たくなりはじめた頃。
 皇宮にヴァスロア軍勝利の知らせがもたらされた。
 ヘイルダート軍は、国境の向こう側へと追いやられたそうだ。
 そして、戦地に赴いたギルベルトが戻ってきたその日、レオンティーナは、屋敷にいた。