だが、立ち去ったふりをして側で見守っていたし、ヴィルヘルムをすぐに呼びに行ってくれた。
 必要以上に不埒な真似をしかけてきたら、いつでも頭をたたき割れるように、ティーポットを両手で持った彼女の姿を今でもありありと思い出すことができる。

「あれは、先方も反省していたぞ。レオンティーナが、いい返事をしないから少しからかっただけだとは言っていたが――次はないと釘を刺しておいた」

 以前ほどの嫌悪感はないようだけれど、釘をさしたと言った時のヴィルヘルムは、少しばかり険悪な表情になっていた。
 いや、険悪ではなく凶悪と言った方が近いかもしれない。

「あの時のことは、もう……それより、アーシア王国が動かないのであれば、ヘイルダート王国も深くは侵攻できませんね」
「ギルベルトが、とても役立っているそうだ。あいつ、歴史だけだと思っていたが、物事を見る目も鋭いみたいだな。俺も今まで知らなかった」
「目の前に集められた証拠をもとに、推測し、それに基づいて新たな証拠を探したり、手元にある証拠を再確認したりして、結論を導き出す。その繰り返しが、面白いのだと以前おっしゃっていました」