「でな、山頂に古代文明の跡地が見つかったんだ。一年計画で発掘チームが入ることになった。クロエ嬢、歴史に興味があっただろう。どうだ? 一度、領地に遊びに来ないか?」

山頂の古代遺跡となれば、誰だって興味はそそられるだろう。うまく発掘調査が進み、整備ができれば、観光地として活用できる可能性もある。コンラッドにとっては朗報だろう。

クロエも歴史学には興味があり、好奇心はくすぐられる。けれど、未婚の令嬢が独身男性の屋敷に滞在すれば、変な噂が立つのは必至だ。そうなれば父も母も、クロエの名誉を守るためその相手との結婚を考えるだろう。
周りを固められたら、クロエだって結婚を断れなくなる。
少し悩んでから、クロエはお茶を濁すような形で断った。

「……せっかくですが、私はしばらく王都を離れる気はありません。お兄様とのお約束も溜まっていまして」

「ケネスか。君は彼のことばかりだな」

「大事な兄ですもの。……あ」

噂が人を呼ぶのか、先ほどバイロンたちとすれ違った廊下の窓際に、いつの間にかケネスがいた。バイロン王子となにやら話し込んでいる。

「お兄様!」

はしたないと言われようと知ったことではない。
クロエが思い切り手を振ると、ケネスがその姿に気づいて手を振り返す。彼は、傍にいるのがコンラッドだとみて取ると、「クロエ、すぐ行くからそこに居なさい」と声をかけ、窓際から姿を消した。
コンラッドは肩をすくめ、バツの悪そうな顔をした。

「やれやれ。見つかってしまった。君の兄上には嫌われているんだ」

ケネスがコンラッドを嫌うのは、彼が昔、クロエを傷つけたからだ。自業自得だろうと思う。
だがそれを言葉に出すのはやめておいた。