「で、きっかけはなんだ」

前のめりになった彼に、ケネスは呆れたように笑うと、そうですね、と足を組んで話し出した。

「正直、告白されたその瞬間まで、彼女のことを恋愛対象として見たことはなかったんですよ」

クリスに告白され、ケネスはまず驚いた。
けれどそれは、嫌悪感や困惑というよりは、感嘆だった。
あのときケネスは、十七歳も年上の、自分を恋愛対象として見ていない男に告白したクリスの勇気に、驚かされたのだ。

もし自分が十七歳年上の異性に恋をしたとして、告白などできるだろうか。
とてもじゃないができない。
なにを馬鹿なことをと言われるのがオチだし、最悪気持ち悪がられる可能性だってある。
ケネスならば、あらゆる結果を脳内で考え、言わないという結論を叩きだすだろう。だが、クリスはそれをやってのけた。

「この子はもう、子供ではないのだ、と思いましたね。それこそ、頭から水をかけられたような衝撃でした」

そうしたら、それまでのクリスの印象がすっかり洗われてしまった。

いざ、子供だという色眼鏡を外してみれば、たしかに彼女はもう大人だったのだ。
自立して店を切り盛りし、客層は平民から貴族までと幅広い。当然要求も様々だろうに、立派に対応している。
人に嫌われない柔らかな態度に、言うべきことだと思えば、拒絶もはっきり言えるそのバランス感覚は、見事としか言いようがなかった。

「何のことはない。彼女は立派な女性だったわけです。十八という年齢とは思えないほど、しっかりしていますよ」

唯一子供らしいと感じるところがあるとすれば、恋愛の駆け引きができないことくらいだろう。
だがそれも、自分が教えていくのかと思えば楽しみにさえなった。