今日は天気がいい。コンラッドの瞳の色に似た薄い青空に、白い雲が不揃いに並んでいる。彼の栗色の髪が風を受けて軽く揺れる。
彼の母親であるマデリンが王城を去った今、彼の容姿は、王家には異質のもののようにも見える。

「……元気だったか?」

「ええ。おかげさまで息災です」

ふたりは、花咲き乱れる中庭を歩いていた。スミレが咲いたと言っていたが、ここは年中なにかしらの花が咲いている。敢えてスミレを探さなくても十分綺麗だ。

コンラッドは、歩きながら自領となったグリゼリンのことを話している。
領土の大半が山で、いまだ開発途中の土地。まだまだ領民との意思疎通がうまくいっているわけでもないらしく、苦労は絶えないようだ。それでも、バイロンが選んでつけた側近が、なすべきことをひとつひとつ考えさせてくれるのだという。

「今はようやく、自分が領主なのだという実感が湧いてきたところだな。こうしてみると、王になると言っていたころは何も考えていなかったのだと、あらためて気づかされる」

すっかり角が取れ傲慢さが消えた彼は、どこか少年のようだ。
新しくできるようになったこと、気づいたことを、楽しそうに話し、愛情を視線でありありと示す。

(悪い人ではないから、余計タチが悪いわ)

子どものような愛情表現は、別の人間が見れば、かわいいとも思えるだろうと思う。だがクロエにとっては、向けられる感情が重い。
彼に対して、恋愛感情はないのだ。改心したとはいえ、媚薬を盛られそうになった恐怖は消えない。
嫌いではないからといって、愛せるかどうかはまた別問題だ。
だからこんな風に好意を寄せられることは、本音を言えば迷惑なのである。