だから、バイロンは伯父が持ってくる縁談をほとんど断っていたのだ。

そのうちに体調を崩し、結婚どころではなくなった。
結果的には毒のせいだと分かったが、当時は原因のつかめない謎の病と言われていたのだ。
有力貴族たちも、いつ死ぬか分からない王太子に娘をやろうという気はなかったのだろう。

「病気になる前に娶らなかったのは俺の意志だ。そしてその後は病気のせいだな。今も療養中だし」

「もうだいぶ治ったのでは?」

「体内には毒が残ると言われている。健康な人間と同じ生活はできるようになったが、通院は欠かせないそうだ」

毒の後遺症が、どこまでの範囲に及ぶのかは、分かっていない。
だからこそ、バイロンは普通の幸せを得ることは諦めている。残りの生は、国を活かすために使うつもりだった。
一度は死んだようなものだから、生きているだけで儲けものなのだし。

「……バイロン様、少しよろしいですか?」

にっこりと笑みを投げかけてきたのはケネスだ。あまりいい予感はせず、バイロンは眉を寄せた。
だが、断るわけにもいかない。アイザックにも内密で話したいというので、ふたりは中庭に移動した。

白や黄色の蝶々が、甘い蜜を求めて飛び回っている。ケネスはそれを眩しそうに見つめながら、バイロンに頭を下げた。

「まずは、コンラッド様をグリゼリン領に戻していただいてありがとうございます。大変だったんですよ。屋敷に乗り込んでこられて。揚げ句、本人の意思も無視して嫁に欲しいなどと言い出すのですから」

「……悪かった。私の方から、もうクロエ嬢に手を出さないよう、きつく言っておく」