「アイザックとの会談の間に、聞き間違いと言い間違いを合わせて五回くらいね。あの調子だと頭には入ってないんじゃないかな。まあ、ついてきていた補佐官が有能だったから、そんなに困らなかったけど」
そんなに上の空だというのなら、やはり告白などしたのがまずかったのだろうかとクロエは焦る。
「私のせい……なのかしら」
「さあね。それを知るためにも、言えるところだけでいいから教えてくれるかな。クロエ」
そう言うと、ケネスは背もたれに体を預け、くつろぐ態度をとった。
答えを急がせないとでもいうような態度や、優しい言葉に、クロエはずっと救われてきた。
「やっぱり、お兄様が好きだわ。安心できるもの」
「そうかい?」
「ええ。全部話すわ。だけど、お父様には内緒にしてもらえるかしら」
「もちろん」
ケネスの返答にほっと息を吐きだし、クロエはゆっくり目を閉じ、声が震えないように話す。
バイロンを初めて意識したときのこと。
補佐官になる前となってからのやり取り。
その中で、クロエは自分の恋心に気づいたこと。
バイロンに告白したけれど、おそらく聞こえなかったふりをされていること。
信頼を失うような行為だったのではないかと思い、後悔をしていること。
泣かないように頑張ったつもりだけど、最後は目尻からこぼれてしまった。
「俺の妹は、ずいぶん大人になったようだ」
そう言って、ケネスは優しくクロエの涙を拭きとってくれた。