「ロザリーとクリスから?」
「二人とも、最近クロエが元気がなさそうだから渡してほしいって俺に持ってきたんだ。俺から渡すのが一番元気が出るはずだからってね」
「……まあ」
クロエは思わず笑みを見せる。そんなに情けない顔をしていたのだろうかと思うと、自分が情けないが、ふたりの気遣いがうれしかった。
「座ってもいいかい」
「もちろん」
ケネスは椅子を持ってきてクロエの向かいに腰掛ける。
「さあ、最近君が落ち込んでいるのはどうしてかな」
「……落ち込んでなんて」
「いるさ。おかげで城の中も屋敷の中も精彩を欠いているよ。君が教えてくれないなら、上役であるバイロン様に聞くけどいい?」
「駄目よ!」
反射的に言い返して、探るような視線のケネスと目が合う。
試されたのかと気づいてももう遅い。
「その調子だとバイロン様がらみかな。最近、彼も上の空だもんな」
「……嘘。そんなことないわ」
バイロンは全く変わっていない。書類の決裁の速さだっていつもと変わらないし、隙が無いところもいつも通りだ。
「分からないとすれば、クロエの前でだけ頑張ってるんじゃないの? あれだけボケた状態の殿下は初めて見たけどな」
ケネスの言うことがクロエは全く信じられない。
あのバイロンがボケてると呼ばれる失態をするなんて、想像もできないのだ。
「本当に? なにかミスでもなさったんですか?」