*
バイロンは、診察の後も普通の顔で迎えに来て、本の感想などをクロエに尋ねた。
幾つか新しい本を勧めてくれ、それを借りたクロエに、読み終えたら感想を聞かせて欲しいと言う。
それから、二週間が過ぎたが、彼はクロエの告白など聞こえていなかったという態度を崩さなかった。
(失恋したのね。私)
そんなバイロンの態度を見て、クロエは静かに、そう結論付けた。
歩むべき道を開いてくれたバイロンの信頼に、返してはならないものを返してしまったのだ。
「はぁ……」
イートン伯爵家のタウンハウスに帰り、夕食を済ませて部屋にこもる。
ここ数日は勝手に涙がこぼれてくる。自室で、ひとりのときしか泣けない自分にあきれながらも、クロエは自分の思いのままに泣いた。
けれども不思議と恋などするんじゃなかったとは思わない。
それは多分、バイロンがくれた今の自分が誇らしいからだろう。
これからも、バイロンの前では絶対に傷ついた顔など見せない。
彼が聞かなかったことにしたいのなら、クロエも言わなかったふりをする。
それが、彼の期待を裏切った自分の、せめてもの贖罪だと思うのだ。
「クロエ、入ってもいいかい?」
ケネスの声に、クロエは我に返る。目尻をそっとふき取り「どうぞ」と笑顔を作った。
「お土産だよ」
ケネスは、手にお菓子の入った籠と香水瓶を持っていた。
「これはロザリーから君にって。百合の香りらしいよ。こっちはクリスが、クロエの好きなお菓子をいっぱい作ったそうだ」
バイロンは、診察の後も普通の顔で迎えに来て、本の感想などをクロエに尋ねた。
幾つか新しい本を勧めてくれ、それを借りたクロエに、読み終えたら感想を聞かせて欲しいと言う。
それから、二週間が過ぎたが、彼はクロエの告白など聞こえていなかったという態度を崩さなかった。
(失恋したのね。私)
そんなバイロンの態度を見て、クロエは静かに、そう結論付けた。
歩むべき道を開いてくれたバイロンの信頼に、返してはならないものを返してしまったのだ。
「はぁ……」
イートン伯爵家のタウンハウスに帰り、夕食を済ませて部屋にこもる。
ここ数日は勝手に涙がこぼれてくる。自室で、ひとりのときしか泣けない自分にあきれながらも、クロエは自分の思いのままに泣いた。
けれども不思議と恋などするんじゃなかったとは思わない。
それは多分、バイロンがくれた今の自分が誇らしいからだろう。
これからも、バイロンの前では絶対に傷ついた顔など見せない。
彼が聞かなかったことにしたいのなら、クロエも言わなかったふりをする。
それが、彼の期待を裏切った自分の、せめてもの贖罪だと思うのだ。
「クロエ、入ってもいいかい?」
ケネスの声に、クロエは我に返る。目尻をそっとふき取り「どうぞ」と笑顔を作った。
「お土産だよ」
ケネスは、手にお菓子の入った籠と香水瓶を持っていた。
「これはロザリーから君にって。百合の香りらしいよ。こっちはクリスが、クロエの好きなお菓子をいっぱい作ったそうだ」