「君は、理想的な女性だ。美しく賢く、勇気もある。……だからこそ、幸せになってほしいと私は願っている」
優しい言葉をかけられているのに、なぜだか突き放された気持ちになった。
「好きな男ができたら、私が取り持ってやる。いつでも相談するといい」
それは、静かな拒絶だ。クロエの相手が自分ではないと、言外に告げている。
「私は病院に行く。君は図書館で本を読んで待っていてくれ」
バイロンはそう言い、ふたりの護衛のひとりを自分に、もうひとりをクロエにつけた。
立ち去ろうとするバイロンの背中に、クロエは思わず叫んでいた。
「私が好きなのはバイロン様です……!」
それを背中で受け止めた彼は、聞こえなかったふりをして行ってしまった。
護衛が、困ったように視線を巡らせている。
答えをもらえなかったことにショックを受けつつ、クロエは唇を噛みしめながら図書館に入った。
泣くつもりはなかった。少なくとも、人がいる前では。
我慢できてしまう自分を、かわいくないとも思ったし誇らしくも思えた。
例え受け入れてもらえなくとも、この気持ちはクロエのものだ。
大切に温めるくらいは許されるだろう。
彼を見つめていられる場所で、彼を支えていけるのなら、それで十分だと思うべきなのだ。
ひとつだけ、強く願った。
どうか失望だけはされていませんように。
信用を得ていたというのに恋をしてしまった愚かな自分を、どうか嫌わないで欲しい。