「最終的に結婚して子を成したいと思っているのかどうかだな。ケネスの様子を見ていれば、君が結婚しなくとも一生面倒は見てくれそうだから、後ろ立てについては考える必要はないだろうが、自分の子孫を残したいか残したくないかは、そろそろ考えたほうはいいだろう」

クロエは無意識に、バイロンとの未来を想像していた。
共に暮らし、子を成したとしたら、どんな風になるのだろう。
バイロンは、子どもにとっていい父親になりそうだ。誘導するのがうまいし、感情的にならず冷静な対応をしてくれる。
仕事をしながら、もし家庭も持てるのならば、それはとても素敵なことだ。
ほんの少し、クロエの胸に期待が宿った。

「誰とでも……とは言いませんが、尊敬できる人となら、結婚したいと思っています」

「ほう」

「仕事をする私を認めてくれて、応援してくれる、そんな人と肩を並べて生きていけるのなら、それは幸せなことだと思うのです」

「男への恐怖感は薄れたと考えてもいいのかな?」

「人に寄りますね。知らない人は怖いですし、言葉の荒い人も暴力的な人も苦手です」

そうじゃない。
好きな人と結婚したいのだ。好きな人となら、家庭を持って生きる未来も想像できる。

クロエはバイロンを見つめた。
瞳に熱がこもっているかもしれない。気持ちがあふれそうになるのを、クロエは止められなかった。

「たとえば、バイロン様なら……」

口をついて出た言葉に、バイロンは目を瞠る。クロエは慌てて口を押さえた。

「すみません。図々しいことを」

「いや……」

バイロンの手が近づいてくる。肩に垂らしている髪に触れ、指先が頬を捕らえる。クロエは心臓が爆発するような気がした。
……が、彼は直ぐその手を下ろした。