それから数日後、クロエはバイロンの通院の付き添いに命じられた。
学術院まで運動がてら歩くため、通常ならばほかに護衛を兼ねたジョザイアという側近も連れて行くのだが、この日はジョザイアではなく、騎士団から手練れを二名、距離を置いて着いて来るように指示していた。
「どうかなさったんですか?」
「話があってな。できれば他の側近がいないときが良かったのだ」
「話……ですか?」
「ああ。先日、コンラッドが伯爵邸に押し掛けたと聞いた。……悪かったな」
その顛末は、クロエはケネスから聞いた。
『父上が断っておいたから、もう何も気にしなくていい』と言われただけだったので、どんなやり取りがあったのかクロエは知らない。
「父も兄も気にしていないようですし。バイロン様に謝っていただくようなことではありません」
「そう言ってもらえるならば、ありがたいな」
ふっと、口端を曲げて笑う彼に、クロエは胸の鼓動が早くなっていくのを感じる。
恋心を自覚して以来、彼を見つめるだけで胸が忙しい。
「……ひとつ、聞いても?」
バイロンが歩調を緩める。一歩後ろをついて行っているつもりだったが、うっかり追いついて隣に並んでしまった。
「はい」
顔を上げれば、バイロンと目が合った。
新緑のような緑の瞳が細められ、クロエを捕らえる。クロエは、見えない緑の蔓に、囚われてしまったような気持ちになった。
「君は仕事で皆に認められた。家のためにはそれで十分尽くしたと言えるだろう。では、その名家に生まれた責務を取り払った状態で、改めて結婚することについてはどう考えているのか、聞いてもいいかな?」
「……どういう意味ですか?」