「ご無沙汰しております。バイロン様、コンラッド様」

「やあ、クロエ嬢。ロザリンド様のところに来ていたのかな?」

 穏やかに返すのはバイロンだ。金髪に緑色の瞳を持つ、正当な第一王子だが、一連の出来事で王位継承権を放棄しており、王太子アイザックの補佐をしている。 

 毒に体を冒されたため、療養しながら執務を続けていたが、最近は体調もいいようで、起き上がっている姿をよく見かけるようになった。

「ええ。ロザリーは私の妹ですもの」

「義理とはいえ仲が良くて何よりだ」

 にこやかに世間話をして、そのまま頭を深く下げる。
 このまま、さっさと行って欲しいと思っていたクロエの願いは、かなわなかった。

「クロエ嬢、せっかく会えたのだし、少し時間をくれないか」

 その声は、コンラッドのものだ。顔をあげれば、彼の顔は真剣みを帯びていて、尚更クロエの心に影を落とす。 
 クロエは傍らのバイロンに視線で助けを求めた。しかしバイロンは柔らかく笑うと、弟の背中を押した。

「今朝散歩したら、中庭のスミレが綺麗に咲いていた。ふたりで見てくるといい」

 王族にこう言われては、さすがのクロエも従わざるを得ない。クロエは仕方なく、渋々頷いたのだ。