「そういうわけでね、家名を支えるための結婚ならばしてもらわなくてもいいのです。それと同等の働きを、クロエはすでにしてくれていますから。あの子が結婚するならば、あの子自身が、一緒にいて幸せだと思う相手と選んでほしい。……少なくとも、娘の意向を無視して直接私のところへこられるコンラッド様には、お任せすることはできません。申し訳ありませんが」
コンラッドの顔色が、赤から青へと変わっていく。ぎり、と奥歯を噛みしめ、「なぜだ!」とヒステリックに叫び、拳を机に打ち付けた。
「……そういうところだ駄目だと言ってるんですよ。コンラッド様」
口を挟んだのはケネスだ。まるで虫でも見るような冷たい瞳で、心底軽蔑したとばかりに鼻を鳴らす。
「簡単に言えば、時代が変わったのです。あなたの言う、古臭い結婚観を悪いとは言いませんが、クロエはもうその場所には立っていない。それが分からないようなら、これ以上クロエに近づかないでいただきたい」
すっぱりと言い切られて、コンラッドは言葉もなかった。
「なぜだ。俺には分からない」
「でしょうね。だから駄目なんですよ。お帰りください。ああ、クロエにいやがらせするのもナシですよ。もしそんなことをしたら、俺は今度こそ全力であなたの邪魔をしますから」
「こら、ケネス。失礼だぞ。……コンラッド様、そういうわけです。お帰りいただけますか」
言葉は柔らかいが、伯爵の方も取りつく島はない。完全に、対象外だと言われている。
「……分かった」
すっかり肩を落として、コンラッドは立ち上がった。
最後になにか負け惜しみじみたことが言いたくて顔をあげたが、なにも思いつかず口を閉じた。
イートン伯爵は微笑んで、コンラッドを見送った。その笑顔には、蔑むような色はなかった。