「わ、私が以前よりクロエ嬢に思いを寄せていることは、イートン伯爵もご存知だと思う」
「ええ。何度か贈り物をくださいましたね」
「まだクロエ嬢から明確な答えをもらえたわけではないのだ。だが、彼女ももう二十歳になっただろう。由緒正しい貴族階級の娘の結婚としてはすでに遅いくらいだ。これ以上遅くなっては、彼女だけでなく、伯爵の体面にも関わる。決して無理強いはしない。クロエ嬢の気持ちが変わるまで待つ気はある。だが、せめて婚約だけでも、させてはもらえないだろうか」
耳まで赤く染めながらそう告げるコンラッドは、まるで初心な少年のようだった。
ケネスは呆れたようなため息をつき、伯爵は笑顔を絶やさぬまま続ける。
「クロエの気持ちが変わるまで待つとおっしゃっておられますが、こうしてひとりで来られたこと自体、お言葉と反対の行動だとは思いませんか」
「なに?」
「私どもはたしかに、クロエに結婚してほしいと思っています。イートン伯爵家の娘として、良家に嫁いでもらい、家同士のパイプを太くしたいと願うのは当然のことでしょう?」
「だろう?」
「……ですが今、あの子は結婚せずとも私の仕事をやりやすくしてくれています。初の女性補佐官として名を馳せましたからな。まして、仕事の評価もなかなかのものです。誰と会っても、あのクロエ嬢の御父上かといわれるものですよ。いや、鼻が高い」
軽く頬を染めながら、伯爵の娘自慢が始まる。コンラッドは困惑しながらそれを聞いていた。