イートン伯爵邸には、ちょっとした嵐が舞い込んできていた。
「だから、クロエ嬢との結婚を認めていただきたい!」
「……コンラッド様。そのようなお話を私の一存で決められるわけがありませんわ」
イートン伯爵夫人ケイティは、頬に手をあて、突然やってきた元第三王子を前に困っていた。
先ほど、夫と息子には、すぐに屋敷に戻るように使いを出した。クロエはいない方がいいだろうとの判断で、娘には出していない。
ケイティはコンラッドを応接室に招き、お茶とお菓子でもてなした。
お菓子はクリスが作ったものだ。ケイティは「まあ落ち着いてくださいませ」と笑って、彼の動向を見守った。
コンラッドは菓子には目もくれず、お茶を一気に飲み干した。
「その、……急な話だと思っているだろう? だが、俺はずっと彼女のことを思っている。必ず幸せにすると誓う。だから」
「コンラッド様のお気持ちは分かりましたが、そのお話は夫のいるところでお願いいたしますわ」
にっこり笑って、ケイティは侍女に再びお茶を入れさせる。
「どうぞ、菓子でも召し上がって、夫の帰りをお待ちくださいませ」
「あ、ああ」
だが、コンラッドは落ち着かないのか、お菓子を掴むとこれまた一気に口に突っ込み、所在なげに足を揺らした。