『君のご両親だって……』
だが、コンラッドの言葉が突き刺さる。吹っ切ったつもりではあるが、それでも他人の心を変えることも言葉を止めることもできないのだ。
母がお茶会でクロエのことをどんなふうに言われているかくらい、分かっている。
クロエには気にしていないと笑ってみせているけれど、誰よりも孫の顔を望んでいるのが、母自身だということも、頭の奥では分かっているのだ。
結婚したいかと言われれば、積極的にはNOだ。跡継ぎをもうけるためという理由であれば、全然する気はない。
だけど。
「分かり合える人とずっと共にいるためになら……いいかもしれないわ」
最近はそんな風に思うようになっていた。
家族はクロエのことを理解しようと努力してくれる。だからこそクロエも、彼らのことをとても愛おしく思う。
それでも、両親には両親の生きた時代や常識があり、クロエの考えを全て理解出来てはいない。
それは違う個人なのだから、仕方のないことだ。
家族だからと言って、クロエの考えに無条件で同意してほしいと願うのは傲慢というものだろう。
だが世界は広く、他人だとしても自分と分かり合える人もいるのだ。
より深い思考で、考えを変えてくれたり、新しい見方を教えてくれる人も。
それが、クロエにとってはバイロンだった。
(ああ、そうか。私はもうとっくに、バイロン様に恋をしている)
そう気づいて、泣きたいような笑いたいような気分になる。
相手は決して自分を恋愛相手とは見ない人だ。見込みのない相手に恋なんてするものじゃない。滑稽なだけだ。
「……つくづく、結婚には向いてないのね」
自分でも呆れながら、頬を叩いて気合を入れ替える。
「あの、大丈夫ですか?」
見張りの衛兵が、遠巻きながらに声をかけてきた。心配されるほど長くここにいたのだろうか。
「大丈夫です。休憩時間も終わりますので戻ります」
クロエは彼らに笑顔を見せ、中に戻った。