毎日、決まった時間に登城し、バイロンの執務室で他の補佐官と共に仕事をする。
バイロンは、クロエに明確な目的を示した。

「労働人口を調べてきてほしい。五年分を表にして、総人口と対比させるんだ。男女比も分かるとなおよい。数値は統計局で手に入る。最初はジャンと一緒に行っておいで」

「はい」

バイロンには他に補佐官が三人いる。そのうちのひとりに連れられ、統計局を訪れた。
一通り説明してもらい、写しを取らせてもらう。
必要な資料の揃え方、まとめ方、それを明確に伝えるプロモーション。バイロンだけなく、彼の補佐官たちの動きを見ていると、とても勉強になった。

最初は物珍しそうな目でクロエを見ていた城の使用人たちも、真面目に仕事をしている様子を見れば協力的になる。

「ご苦労様です」

やがてあちらの方から挨拶してくれるようになり、普通に会話するようにもなった。

そうして、クロエが勧めていた孤児院の経営に関する法案は、何度かの議会を通して固まっていった。

議会でも堂々と発言するクロエを、ケネスとイートン伯爵は驚きながら、バイロンは微笑ながら見つめた。

「以上です。ご質問は?」

議場はシンとしていた。小娘がと思っていた貴族議員の多くが、理路整然としたクロエの説明に息を飲む。
やがて、平民議員が手を合わせ拍手を贈ると、会場の半分くらいがそれに応じた。

「議長、決をとってくれ。法案を可決するか、否決するか」

「はい。バイロン様」

議長の野太い声で、議場はいったん静まり、そして採決に湧いた。
クロエはまるで夢でも見ているようだと思いながら、その場に立ち尽くしていた。