「私が、口添えしよう」

「……え?」

クロエはゆっくり顔をあげた。

「君は、普通の男と変わらずしっかり仕事ができる。言うべきことも言える。屋敷に閉じ込めておくことは国の損失だ。知り合いのよしみとかではなく、実際にそうだと思う。能力があり本人にその気があるのなら、活躍の場を用意するのは国の仕事だろう」

そう言うと、バイロンは従者を呼び、ケネスを呼ぶように言う。
クロエは心臓がバクバクして仕方ない。兄に、どんな目で見られるかと思うと怖いのだ。


やがてやってきたアイザックとケネスが、バイロンから事情を聴いている間も、クロエはうつむいたままでいた。

「クロエ。おまえの気持ちはどうなんだ?」

一通り聞き終えたケネスは、なによりもまず、クロエの意志を確認してくれた。
クロエはそれにひどく安心した。だから兄が好きなのだと改めて思う。

「もしできるのなら、仕事として殿下のお手伝いをしてみようかと思っています」

ケネスは少しばかりがっかりした様子だったが、バイロンから手渡された資料を眺めて、頷いた。

「ふむ。……これをクロエが作ったというのなら、家でおとなしくしてしろとは言えないね。まだ粗削りではあるけれど、説得力はある資料だ。おそらく、バイロン様のお力にもなれるだろう。……父上のことは俺に任せるといいよ。うまく説得してやろう。なあに、父上はクロエが笑っているのが一番うれしいのだから大丈夫だよ」

兄の笑顔は、いつも通り優しかった。
クロエは安堵で泣きたくなったが、涙を見られるなどごめんだ。必死にこらえていると、バイロンと目が合った。
見透かしたような顔が悔しくて、そっぽを向いた。

「ではイートン伯爵の了承を得たら話を進めよう。クロエ嬢は私の補佐官として、しばらく働いてもらう。雇用条件については今から詰めようか」

こうして、クロエはバイロンの元、働くことになった。