「ではどうするのだ? 結婚はしたくないのだろう。目立つ仕事もせず、家にただいるごくつぶしになるつもりか? それはそれでご両親を悲しませることになるのでは?」

「結婚は……」

「いずれする? 君が?」

バイロンに顎を持ち上げられ、クロエは反射的に手ではじいた。

「あっ……」

不敬だ。と咄嗟に思い、謝ろうとしたが手で制された。
クロエはなにも言えなくなり、ただじっとバイロンを見つめる。

「……前から思っていたのだが。君は男が怖いのではないか?」

ビクリ、と体が震える。
誰と討論しても負けることはない。気が強く、勝気な美貌を持つクロエを、臆病だと呼ぶ人間はほとんどいない。

「夜会と言えばエスコートはケネスだ。アイザックも、君とは昔馴染みだが敵対心しかもたれていないと言っていた。それだけの美しさだ。いい寄る男がいなかったとは思えない。その中の誰かに、いやな思いでも?」

クロエに言い負かされて、皆がすごすごと立ち去るわけではない。いきり立ち、軽い脅しを加えてくる男はたくさんいた。大抵はケネスが守ってくれたが、五歳上の兄とは学校が共通する期間が短かかった。

「だっ……て、お、男の人は力が強いわ」

声が震える。クロエは恥ずかしくなって軽くうつむく。
弱い姿なんて誰にも見せたくないのに、なぜこんなことになったのだろう。