彼女を眺めていたバイロンは、足を組み、その上に両手を乗せ、背もたれに寄りかかった。

「……君の懸念は、なんとなく想像はつくよ」

「え?」

「君は頭脳も度胸もあるわりに、妙に公の場ではおとなしい。それはなぜかとずっと考えていた。君たち家族は仲が良い。おそらく、君にとって一番大事なものが家族なのだろう。家族に反対されることが怖い、もしくは、家族に自分の行動が害を及ぼすことを恐れている……違うかな?」

見事に言い当てられ、クロエは思わず、彼に見入ってしまった。

「……どうして」

「王家の三兄弟の誰にも物おじしない令嬢が、議会ごときにおびえたりはしないだろう。躊躇する理由は別のところにある。であればそれは、君が大事にしているものに関連しているはずだ。君がケネスにべったりなのはいつものことだし、イートン伯爵の子煩悩は有名だ。総合して考えれば、おのずと見えてくるだろう」

この人は観察力に長けているのだと、クロエは思い出した。
小さく笑い、諦めたようにつぶやく。

「そうですね。バイロン様の思っておられる通りです。私がなにか言われるのは一向にかまいませんけれど、家族が後ろ指を刺されるのは困ります。それに、おそらく父は私が仕事をすることに反対するでしょう」

父に嫌われるのは怖い。クロエにとって居心地のいい場所は、伯爵邸しかないのだから。