だが、伯爵家の子供たちは結婚願望が無いに等しい。
 クロエとしては、一生兄妹で暮らして、伯爵家を盛り立てて行ってもいいと思っている。

 子どもがいないのなら、親戚筋から養子を取ればいいのだ。自分が母親になれる気はしないが、親代わりくらいにならなれるだろう。

「ふふ。お義母様らしいですね。クロエさんは、結婚には興味ないんですか?」

「ないわね。お母様は二言目には子どもを産むには早いうちじゃないとって言うけど、子どもを産むために好きでもない男と結婚するのは違うと思うわ」

 こんなことを、普通の貴族令嬢に言えば眉を顰められる。だが、ロザリーは違う。自分と意見が違うときでも、クロエの意見として一度は受け入れてくれる。
 だからこそ、彼女と話しているのは心地よかった。

「お母さまは、今頑張らなければ行き遅れると言うの。二十歳を超えれば、途端に求婚の話も無くなりますよ、って。いいじゃない。願ったりだわ。私はずっとお兄様といたいんだもの」

 現在クロエは、十九歳。今も五歳年上の兄を敬愛している。兄さえいれば、別に結婚などしなくても構わないと思うほどに。

「そうですね。ケネス様は頼りがいがありますし、一緒にいると安心できますよね」

 ロザリーの同意に、クロエも気をよくする。

「そうなのよ。お兄様だったら私が何を言っても動じないし、なにか困ったことになっても必ず助けてくれる。そんな人が他にいるとは思えないでしょう? 私を守ってくれるか分からないような人のところへ嫁ぐよりはお兄様の傍にいたほうが数倍幸せだわ」

「ケネス様もクロエさんをとても大切に思っているのが分かります。……だからこそ、もっと幸せになってほしいと願っているのではないでしょうか」