探るように、バイロンがクロエを見つめる。けれどクロエは言葉に詰まってしまった。
これまで、クロエは話の通じない相手とは、基本関わらないようにしてきた。彼らを説得するなど、労力の無駄づかいだと思うし、そのために陰口を叩かれたとしても、気にしなければいい話だ。

「納得……。それは難しいです。だって彼らは考えられないんでしょう? 王子の権力で強硬できないんですか?」

「この国が向かおうとしているものは、専横政治国家ではないからね。我々の独断が通るようではいけないんだよ。政策は提案し、議論し、賛同を得なければ動かせない。彼らを納得させるだけの思想、統計、展望、そして堅実な計画が必要だ。……時間がかかってもいいから作ってみるといい」

「誰がですの?」

「この流れからなら、君が作るべきだろう」

「は?」

バイロンににっこり微笑まれて、クロエは動揺する。

「どうして私が。政治は男性の仕事でしょう」

「どうして君じゃダメなのかな。そこまでの意見が言えるのならば、実現するためになにをしなければいけないのかも考えられるだろう」

「そんなことは……」

反論しようとして、クロエは一瞬考える。

思いつかないわけではない。
自領の利を得たい貴族には、孤児院にいる多くの子供が全員まともに仕事に就いたときに得る税収と、十八歳になり孤児院を追い出された子供たちの現在の就労状況と、ならず者となってしまった者たちの犯罪被害を想定して示してみせればいいのだ。

教育を与えてくれた人へは、恩は感じても恨みを抱くことはない。そうやって育った子供は領土のために生きられるだろう。
正式な数値は調べてみなければ出ないが、教師を定期的に孤児院に派遣する程度の費用は簡単に上回るだろう。