バイロンのお勧めの本は分かりやすかった。
読む段階も考えられているのだろう。前回のものよりも少し高度で、同じことが書いてある部分も記述が違う。より深い考察がなされていて、理解が深まるようなものだ。
(……意外と、勉強家なのか)
選書を見ているだけでも、付け焼刃の知識ではないと分かる。
身分に胡坐をかいてきたわけではなく、王太子という立場に見合う努力を、彼はしてきたのだろう。
それだけのことをしてきたのに、国のためだとその座を弟に譲れる心境はいったいどのようなものなのだろう。
いつの間にか、思考がバイロンのことばかりになっていることに気づいて、クロエは焦った。
「違う違う。なに考えているのよ私」
頭を振って追い払おうとして、……だけどまた思い出してしまう。
これまで、クロエの心を占めていたのは、家族だけだった。
クロエは家族が大好きだ。父や母は温厚で子供好きだし、兄はやや曲者ではあるが、優しい。口調が強く敵を作りやすいクロエを、みんなが守ってくれていた。
でもそんな家族でさえも、クロエが学び続けることを応援はしてくれなかった。
考えろ、と言ってくれたのは、バイロンだけだったのだ。
(……調子が狂うわ)
きっと今まで出会ったことが無いタイプだから珍しいのだ。そうに違いない。バイロンの言葉を、何度も思い出してしまうのは。