次にクロエが学術院に向かったのは、借りた本を読み終えたときだ。
カウンターに返却の申請をすると、受付の男性が整理棚から封筒を持ってくる。

「クロエ様、バイロン様より伝言を預かっております」

「バイロン様から?」

「はい。こちらになります」

封筒は王家の印で封蝋されていた。儀式で使う香のにおいが鼻をかすめ、クロエの脳裏にバイロンの姿がまざまざと思い出される。

(間違いなく、バイロン様からみたいね)

奥の閲覧机を陣取り、封蝋を開けた。

中身はとくに色気のある内容ではなかった。
今度王城に来るときに、先日の本の感想を聞かせてほしいという内容と、この本に興味があるなら次のお勧めはこれだ、といった本の推薦だった。
クロエはしばらく考え、彼の推薦本の中から数冊借りた。

それから屋敷に戻ってからも、クロエは本を読み続けた。

「クロエ様は、お勉強が好きなんですか?」

と、屋敷で預かっているクリスが、お菓子を持ってきて言った。快晴の空色のワンピースに白いエプロンをつけている。彼女全体から甘い匂いがした。

「ありがとう、クリス。今日も焼いてくれたのね」

「この間のマフィンと食べ比べて欲しいのです。今日は中にドライフルーツをいれたんです」

「分かったわ。……ふむ。おいしいわね。前のバナナのときよりもさっぱりした感じになるから、生地がもう少し甘くてもいいのかもしれないわね」

「なるほど。次のときにやってみます!」

拳に力を入れて、クリスが意気込んだ。
まだ七歳。幼いわりにしっかりとしたクリスは何事も素直に受け止め、改善しようとする。
クロエは癒された気分で、再び本に向かった。