「分かりました。好きになさってくださいませ」

「では行こうか。ああ、この本の借用手続きは君が済ませてくれ」

言われて、本を持ち上げると、ズシリと重みが腕に加わった。
クロエの頭の中に、自己責任という言葉が浮かぶ。

(なるほど。責任の重さというやつね)

自分で決めて行動するということは、責任も自分で持つということだ。
よくいう〝自由〟や〝権利〟には必ず〝責任〟が付随する。
バイロンが借りてクロエに渡すこともできる。けれど、そうすれば、この本に関する責任はバイロンが持つことになるのだ。
自分の道を切り開こうと思うなら、自身で責任を取れということなのだろう。

「……バイロン様は、私が思っていたのとは少し違いますのね」

バイロンは皮肉気な笑みを返した。クロエは一瞬ドキリとする。

「どう思われていたのか知らないが、人は変わるものだろう。生まれたときは原石で、生きながら研磨されていくものだ。どんな人間と出会うかで磨かれ方は変わるだろう。今の私は君にとって、研磨の失敗した宝石か? それとも美しい宝石に見えるか?」

少し考え込んで、クロエは答えを得る。

「美しく磨かれていますわ。思っていたよりもずっと」

「だろう。私も今の自分が気に入っている。クロエ嬢もそうあれるように努力すればいい」

差し出された腕に、遠慮がちに手をかける。
一瞬、周囲がざわめいたが、この程度のエスコートは普通に行われるものだ。
ただ、クロエがそれを受けるのが珍しいというだけ。

(そう。……それだけよ)

言い訳みたいに、クロエは心の中だけでつぶやいた。