驚くほどまっすぐな目をしていた。クロエは、胸の奥がむず痒いような変な感覚がして、急に居心地が悪くなる。

「クロエ嬢も、自分の望みがなんなのか、よく考えてみるといい。時間はたっぷりかけて、自分が本当に望んでいることを見極めるんだ」

「私の?」

「ああ。察するに、自身の主張と貴族の常識がかみ合っていないことを憂いているように思えるのだが」

その通りだ。今の自分のままであろうとすれば、貴族社会で認められない。そのアンバランスさがストレスを産む。

「はい」

「憂いているだけでは何も変わらない。考えるんだ。その憂いを晴らす方法を。どうすれば、結婚しなくてもいいと言われるのか。そのためにどんな手段を講じればいいのか。――これを」

バイロンが、机に会った本をクロエの方へと押し出してきた。

「これは?」

「女性の権利について外国で書かれた本だ。こっちは奉仕活動に一生を費やした女性の伝記だ。これは国の法について書いてある。法を守るのはまあ大切だろう。では、法に触れないように、君が君らしく生きられる方法を探してみてはどうだ」

それはクロエにとって、予想もしていなかった提案だった。

良家のお嬢様で、望んだものは与えられるクロエは、自分が置かれている立場をよく理解していた。
イートン伯爵家の家名を汚さないようにすればこそ、自分には恩恵が与えられるのだと。
現状に不満があり、それを隠す気はない。だけど、それを変えていくだけの気概はなかった。

女性が変革を求めれば、非難の目で見られるのは必至だ。当然、家族も同様に非難され、名誉を傷つけられる。
大切な家族に不利益を与えるようなことはしたくなかった。

だから、バイロンの提案は頭をかすめることはあっても、実行してはいけないと自分で言い聞かせてきたことだった。