「私は、体調を崩していた期間が長かっただろう。その間、できることは考えることだけだったのだ」
「はい」
「健康で執務をしていたときは、目の前に提示されたものこなしていくことが自分の仕事なのだと思っていた。正直言えばそれだけでも結構な量があるからな、日々忙しくて、一日が終わるのは早かった。それで、立派に王族としての務めを果たしていると思っていたんだ。……だが、起き上がれなくなるようになると、私には仕事が回ってこなくなった。そこで初めて、〝どうすれば〟と考えるようになった」
「……どういう意味ですか?」
「元気になって父上のお役に立ちたい。ではどうすれば、俺の体は治るのか。医者の診断を聞き、奇病にまつわる本も読んだ。いろいろ試したが改善はしなかったがな。だから次はこう考えた。“どうすればこのままの状態で父上のお役に立てるのか”」
よどみなく話し続けるバイロンを、クロエは奇妙な気持ちで見つめた。
昔持っていた意地悪な王子のイメージは、淡々と語る今のバイロンとは合致しない。
「やがて見えてきた結論がある。〝どうすれば、この国はよくなるのか〟を考えたら、答えはひとつだ。アイザックを次期王として立てればいいのだ。平民の不満が高まり、貴族政治が腐敗した今、ふたつを活かしながら国を治めるには、両方の血を持った王子の存在が一番有用だ」
「でも、法律では、継承順は年齢順と決まっております」
「それはそうだな。だが、目的のために、そこは守らなければいけないものなのか?」
「はぁ?」
先ほどから何を言っているのか分かっているのだろうか。
法は守らねばならぬものだし、慣例もできる限り続けていくものだろう。
そうでなければ困るのは、むしろ王族のはずだ。
普通、自分の権力を失うことをよしとする人間などいない。