アイザック第二王子とロザリンド・イートン伯爵令嬢の婚姻が結ばれてから一年。

 常に妻の様子を窺い、どこにでも連れて歩こうとするアイザック王子は、愛妻家の名を世間にとどろかせている。国中の貴族が、すぐにでも次のお世継ぎも誕生するだろうと、下世話な噂話に花を咲かせるくらいには。

「で、どうなんですの。実際のところ」

 専門家が厳選した香り高い紅茶を一口含み、クロエはロザリンドことロザリーに問いかける。

ここは城の三階にある一室だ。王太子妃ロザリーの義理の姉にあたるクロエは、彼女の話し相手として、時折城を訪れている。
 細かい意匠を凝らしたパールベージュの清楚なドレスを着て、ロザリーが微笑む。ふわふわとしたピンクブロンドが揺れて、周りの空気も柔らかくなったように感じられた。

 最初にロザリーを見たとき、クロエはなんて田舎娘が来たものだろうと思ったものだ。
 男爵令嬢だというが、まだマナーさえ習得できておらず、平民と間違えられてもおかしくはなかった。
 その彼女も、今は立派な王太子妃だ。
 そこに至るまでには、クロエの母に令嬢教育を受けたり、伯爵家に養子に入ったりと様々なことがあったのだが、ここでは割愛する。

「そんな。まだまだですよう。私はまだ十八ですし。ザック様もしばらくはふたりの生活を楽しみたいとおっしゃってますし」

「ふうん」

 それはすなわち避妊をしているということだ。
 結婚したのに……とは思うけれど、子どもが子どもを産むような事態になるよりいいとクロエは思った。

 ロザリーは普通の女性より成長が遅めだ。まだ背も伸びているようだし、顔つきも子供らしさを抜けきれない。
 妊娠が及ぼす体への負担を考えれば、もう数年待って体が成熟してからのほうがいいだろう。