「待って」
「何っ?」
手を捕まれて、進行を止められたミュウが勢いよく振り返る。
その目に一杯涙を溜めて………
それを見たらもうダメだった。
言えないだのなんだの言ってる場合じゃねぇだろ。
今言わなきゃいつ言うんだよ!
「…好きだったから」
やっと絞り出した言葉に、ミュウの顔超ビックリしてる………
「好きだったんだ。あの雨の日よりずっと前から。………だからあの時好きって言ってくれて…チャンスだと思った」
それから。
言い訳がましいけど、自分がこの性格………無口で無表情なのを結構悩んでて、それをわかってくれるミュウを「こいつなら」って思ってることを、言葉足らずだったかもしれないけど、伝えたんだ。
最初は「愛情は言葉に出して伝えてほしいの!」なんて怒ってたけど、最後まで俺の話ちゃんと聞いてくれた。
そしたら急に泣きべそ顔が、くしゃって笑顔になって………拍子抜け。
まぁ、不覚にもキュン☆ってしたけど。ヤバイ俺、ほんっとにこの笑顔に弱いかも。
「なんだよ…さっきまで泣いてたくせに」
照れ隠しでそんなこと言うと「へへっ、もういいや」って笑ってくれて。
そしてさ―――
「ヒナタ好き…大好き☆」
俺が世界中でいっちばん、それこそどんな物とも変えられない嬉しい言葉をくれたんだ。
恥ずかしそうに腕に絡み付いてくるミュウからはシャンプーの甘い香り。
どれもこれも、ずっと俺のもの。
幸せ過ぎてもう胸がいっぱい。
「ミュウ」
くるりと回して自分のほうに向ける。目と目が合う。
澄んだ綺麗な目を見つめると、素直に口から出てくる。
「好きだ」
「へっ?」
そんな鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔しちゃって。
今、初めて「ミュウ」って呼んだ。
ドキドキもんだったけど、今逃したら一生「成宮」のままかも知れねぇもん。
「好・き・だ」
念のためもう一度復唱。
もしかしたら、自分の為だったかも知れない。
初めて好きな人の前で、口にした幸福を噛み締めたくて……………ってとこかな。
「うん…嬉しい」
ホントに嬉しそうに笑うミュウをみてたら「言ってよかった」って心から思えたんだけど――――――――
「教室、戻ろ」
なんて現実に引き戻されると……うわっ、ヤバイ超恥ずかしい俺!
幸福浸りすぎじゃん!
つうか、一生ってなに!結婚ってか?何先走っちゃってんの~?
顔赤くなるのわかったし、恥ずかし過ぎて、ミュウの顔まともに見れない。
思わず背中向けちゃった。
「ヒ~ナタ♪」
「……?」
名前呼ばれて、反射的に振り向いた視線の先………
「!!」
ミュウちゃん?これって……明らかに「チュウして下さい☆」ポーズでは?
目の前の有り得ない展開に、完全にパニック。
どうしよう、どうしよう、どうしよ………………
ああっ、もうなるようにしかならない!
チュッ
ホントに触れるか触れないかって位軽いキス。
でも確かに残るミュウの唇の柔らかさにドキドキで………何度も蘇る恥ずかしい光景と感触に穴があったら入りたい気分。
それを知ってか知らずか(いや、あれは絶対気付いてていじってきたんだ)ニコニコ顔のミュウに「初めて名前で呼んでくれた」とか「ファーストキスだねぇ♪」とか、超恥ずかしいとこばっか突かれた。
恥ずかしいけど、超恥ずかしいけど………充実した一日。
こうして俺はこの日、改めてミュウとの気持ちを確かめ、ファーストキスをした――――――――――――
◆◆◆◆◆
「こら~!太陽(たいよう)、煌星(きらら)!勝手に飛び出しちゃだめ~!」
「「きゃはははは♪」」
「あ、お世話様でした」
「は~い。お気を付けて~♪」
ニコニコ手を振る担任の先生に一礼して、幼稚園を出る。
目の前には、一足先に園庭をチビ達追っかけて走る、愛おしい後ろ姿。
あれから、早いもんで八年。
めでたく一緒になれた俺らに双子が生まれた。
兄の太陽(太陽)と妹の煌星(きらら)は今年で五歳。
二人とも超やんちゃで、持て余すこともあるけど……でも可愛い我が子。
「も~、やっと捕まえた~……パパ手貸してよぉ」
悪ガキ達の手を引いて、半ベソのミュウ。
「ちょっと聞いてる~?」
「ん?……あぁ」
「もぅヒナタったら相変わらず…」
「「ヒナタったら相変わらず!」」
「こらっ、パパって呼びなさい!」
ミュウの真似して怒られても、双子はケロリ。
同レベル。大分振り回されてるな~…………
「行こっか」
「「は~い、パパ☆」」
ミュウから双子を受け取ってゆっくり歩き出す。
いつものように、左にきららを抱えて、たいようはジーパンから出てるウォレットに捕まる。
そして
「ほら」
「うん☆」
昔と同じように絡み付くミュウ。
残った右腕は……………永久に、愛する奥さんの特等席だから――――――
【END】