ごくりと朔夜さんの唾を飲みこむ音が聴こえた。
額にはうっすらと汗を掻いている。
私は無表情のまま、彼の美しい色を持つ瞳だけを見つめていた。

「母は知っていたと思います。 その数日後、母が自殺をしました」

自分の肌をねっとりと伝う舌の生暖かい感覚を今でもリアルに覚えている。

汗とお酒の混じり合った不快な匂い。 あの部屋の湿った空気。 泣いても叫んでも、誰も助けてはくれなかった。

激しい痛みを体中がびりびりと貫いていく。あの日、私は純潔を失った。


ゆっくりと朔夜さんが起き上がる。 ふわりと体に白い布団が掛けられる。 もうそれ以上彼が私の肌に触れる事はなかった。

背中を向けたままベッドの端に腰をおろす。ふぅっと小さなため息が彼の口から漏れた。 猫背になり肩を落としていたように見える。彼のふわふわの髪が暖房の風で僅かに揺れた。

「…やっぱり、お前ムカつく…」

言葉に先程までの力は無かった。
さっきまでの荒々しさは感じられずに、とても静かに口を開いた。