ゆっくりと体を引き離した智樹さんは、いつものようには笑っていなかった。
どこか困ったような顔をし、眉尻を下げる。それと同様に切れ長の瞳も垂れ下がっていた。

「それにお洋服や靴も沢山買ってくださって、ありがとうございます。
私今は仕事をしていないけれど働いたら必ずお金は返しますね?」

ずっとずっと智樹さんは苦しい顔をしたままだった。

頬に触れる手がじんわりと温かい。 もしも私にお兄ちゃんがいたらこんな感じだったのだろうか。

いいや、違う。妹は、兄にこんな感情を抱かない。 抱きしめられてこんなにドキドキしたりしない。頬に触れられて、熱情に似た感情を抱かない。

「いいんだ、あれは俺からのプレゼントだから
まりあが気にする事じゃない。

まりあ…どうして君はそんなに素直に俺を…」

私の頬を撫でる手がどこか戸惑っていた。 彼の両手で包まれて顎を掴まれた時、キスされると思った。

けれどパッと手を離した智樹さんは、私に背を向けて「ごめんな」とだけ言って長い廊下を再び歩き出した。