「あゆなにそっくりで、驚いたよ…」

私達の会話を、智樹さんは黙って聴いていた。その表情はいつも見せる笑顔ではなく、淡々としていてどこか無表情だった。

「私があの時あゆなの結婚を反対していなければ、あゆなは家を出て行かなかった。
ずっとあれから後悔ばかりしていた。
君が居ると知ったのも、あゆなが亡くなったと知ったのも暫く後だった。
私は、死ぬ前にどうしても君に会いたかった…」

顔色はちっとも良くない。きっと遠くない未来にこの人は存在しない。
けれどそれを寂しく思えるほど、この人の事を知らなかった。
言葉を失った私は、ただただこくんと頷く事しか出来ない。

それでもこの人は慈愛に満ちた瞳で私を見つめてくる。どこかで私と母を重ねている。

血の繋がりとは、そんなに大切な物だっただろうか…? そんな事を考えてしまう私はやはりどこか欠落しているのかもしれない。

「おお…許してくれ…あゆな…あゆな…」

夕暮れの沈む病室内で、まるで悪夢にうなされるかのように祖父は涙を流し、もう居ない誰かに許しを乞うていた。

私はその両手を、やっぱり握れないままその場に立ち尽くしていた。