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病院で会った顔も見たことのなかった祖父は偉く痩せ細っていた。

白髪混じりの頭髪と、皺くちゃの顔。 だけど眼光だけはやたら鋭くて、この人が本当に母の父なのか、自分の祖父なのか、いまいち実感はわかなかった。

車内で少しだけ智樹さんに横屋敷グループについて話は聞いた。華やかな一族。祖父には兄弟が数人いる。しかし祖父以外は亡くなっていて、その兄弟達には子供が居る。

横屋敷グループのトップを虎視眈々と狙う人物は居る。 祖父が居なくなった後に会社のトップに立つのは一応表向き智樹さんになってはいるが、所詮は養子だという事。

そこまでの話を聞いて、朔夜さんの言う通り彼が私に親切にするのは、私だけが現在この祖父と血の繋がったれっきとした孫娘だからかもしれない。


祖父には亡くなった本妻の他にも何人か妾がいたそうだ。
けれども余り子宝には恵まれない運命の人だったらしい。

「君が…まりあ…」

歳の割にはしっかりとした声で喋る人だった。 私へ向けられた両手が僅かながら震えていて、瞳にはうっすらと膜が張られている。

数日前に存在を始めて知った人間を、祖父と思えというのは無理な話だ。 差し出された手を受け取る事は出来なかった。 その代わり祖父は眉尻を指でぎゅっと押さえた。