「本当にまりあにはびっくりしちゃうな」

買い物を終えて車内の中で智樹さんは上機嫌で言った。

「智樹さんの買い物って…」

「まりあは絶対にもっと綺麗になると思ったんだ。
そうしたら俺の想像以上に綺麗になってしまって、実は今すごく戸惑っている」

全然戸惑ってなさそうに彼が言う。 戸惑っているのは、私の方だ。 ドキドキして、胸の奥がきゅっと苦しくなる。 そんな感情、私は知らない。

男性経験がない訳じゃない。男達は、可愛いと繰り返し言いながら私を抱いた。けれど目的が達成すれば、背を向けた。損得勘定のない可愛いや綺麗を私は今までの人生で貰った事があっただろうか。

「こんなに綺麗になっちゃったら、まりあに悪い虫がつかないか心配」

病院へ向かう途中の交差点で信号が赤になった。
ハンドルに顔を寄せる智樹さんが、甘ったるい声でこちらを見ながらそう言った。

目尻が垂れ下がりとても優しい顔をしているというのに、こんなに不安になるのは何故だっただろう。

言葉を返す事が出来ずに、ルームミラーに映る母によく似た女の面影をどこかで探していた。