時刻はまだ午前。
私の意見は参考になるかは別として、智樹さんは車を走らせた。

車内では智樹さんがいつもと変わらず穏やかな口調で話を掛けてくる。 当たり障りのない話ばかりで、彼の思惑はさっぱりと分からなかった。

けれど着いた場所は都内ビルに入っているファッショナブルな美容室だった。
智樹さんが受付で名前を告げると、奥から店長らしき男が出てくる。

「横屋敷様。お久しぶりですね。
お待ちしていました。ささ、どうぞ」

「どうも、今日はこの子を頼みたいんだけれど」

「かしこまりました。奥の部屋へどうぞ」

何が何やら訳が分からぬまま奥の個室へ通された。

こそりと智樹さんが耳打ちをする。「ここもうちのグループの経営するお店だから。とはいっても美容関係の会社は朔夜がオーナーをしているんだけど」と。

どうりで。
朔夜さんはどちらかと言えばかしこまった会社の社長風ではなかった。こういっちゃあれだが見た目や雰囲気がどこか胡散臭い。美容系の会社を経営しているのならばそれも納得だ。

個室の中で何故か店長らしき男と二人きり。
よく喋る人だったと思う。