どうやって病院まで行ったのか分からなかったが、俺は病院の廊下を走っていた。
 

病室のドアを開けると白衣を着た先生や看護婦が一斉に俺の方を見た。





俺はおふくろの元に近寄った。








……寝ていた







目を閉じている




すごくゆったりとした表情で、気持ち良さそうに寝ていた
 





俺はおふくろの顔に手をあてた。







「おふくろ……やっとゆっくりできるよ。これからはそんなに無理する必要ないんだよ」


目を閉じているおふくろに向かって俺はずっと言いたかった言葉を言い続けていた。


「おふくろ、今日で借金全額返せるよ。そして残った金で約束していた温泉にでも行こうよ。熱海でも箱根でもおふくろが行きたい所で良いよ。ゆっくり温泉に浸かってさ、美味しい料理食べてさ。ねぇおふくろ……」
 





「おふくろ……借金はもう返せるんだ……」
 








自分を犠牲にして俺を育ててくれたおふくろ。


手は荒れて、白髪だらけで、痩せ細って、寝ずに働いていたおふくろ。




「おふくろ……?」
 



おふくろ……?
 




なんで何も言ってくれないんだよ……












「心筋梗塞でした……」