「拓真本当変わったなあ、拓真がかっこよく見えるよ」

「お前にだけは顔のこと言われたくねーよ」
 
拓真は突然動きだし、おふくろの仏壇の前で手を合わせた。

「お前のかーちゃんに線香あげねーと」

拓真はブツブツと手を合わせながら何か呟いていた。
 
振り向いた拓真は大きい口を更に大きく広げて笑った。

「お前の幸せと俺の家族の幸せ願っといたよ」

「俺の幸せは余計なお世話だって。拓真は今幸せなんだな」

こんなに幸せそうな笑みを浮かべる拓真を俺は初めて見た。

自分のことより人の幸せを願える拓真は幸せ者だ。

「俺か?幸せかって聞かれたら幸せだよ」

「人の幸せ願えるんだもんなあー昔の拓真じゃ考えられないよな」

「何言ってんだか。ところでお前いま何やってんの?ホストまじで辞めたのか?」

「辞めた。っつーかオーナーの中では俺はバックレたことになってるらしーけど」

「相当参ってるらしーぞ。『智也がいなくなって。店の売り上げがドンっと落ちた』ってオーナー言ってたし。俺てっきりお前はホストの世界で生きていくとばっかり思ってたし。だからオーナーの話聞いて驚いたよ」 

「そうか?」

「だってお前一緒に働き始めた時、なんっつーか活き活きしてたっつーかさ、楽しそうに俺には見えたからさ」

「楽しそう?」

「お前頑張ってたしな」

「……」

「ま、俺の方がお前と働けて楽しかったけどな。お前のおかげで店にあった借金も返せたようなもんだし」




……あの頃はただがむしゃらだった。楽しいとか楽しくないとかそんなこと考える暇もないくらいに。

 
その結果……


俺が得たものはなんなんだろう。

 
得たものより失ったものの方が大きいんじゃないか。

 
取り戻すことのできない時間、生きがい、感情という感情、全てがなくなった。

そして一番失いたくなかったおふくろ。

何だったのだろうか。

俺ががむしゃらに頑張ってきたことは。