「よーお!」

拓真はデカイ声で俺の家に乗り込んできた。

「それにしてもよーお前んち相変わらずボロイなあ」

「うっせーよ」

俺はおふくろと過ごしたこの家にまだ住み続けていた。

生活苦だった頃の家らしく、年季が入った古汚いアパートだ。

おふくろが死んで一時期はこの家からも逃げていたが引越しすることだけはどうしてもできなかった。

「それにしても拓真には驚くよ、不良だった拓真が今では二児の父親だなんてさ」

「だろ?俺が一番びっくりしてるって」

拓真は無事に高校を卒業し、好きだと言っていた女と早々にできちゃった結婚をしていた。

髪も黒く染め、今はまじめに建築作業員として働いている。

「人って変わるもんだな」

「まあな。だけどなあ、子どもがいると不思議と頑張れるんだよな」

「そっか……」

自分のためではない、誰かのために生きる人生。

拓真は輝いていた。

幸せで仕方がない表情をしている。

俺は拓真が羨ましかった。

拓真のようにこれから先誰かのために頑張ろうなんて思えるのだろうか。

おふくろのために頑張ろうと思えたそれ以上のことなんてあるのだろうか。

自分のためだけに生きる人生がどんなに虚しいものか、おふくろがいなくなって俺は思い知った。


俺は今だにどう生きたら良いのか分からないままだ。