俺は本当は知っていた。

おふくろがずっと親父を待っていたことを。

おふくろは親父を悪く言ったことがなかった。

普通なら恨むだろう相手を、おふくろは恨んではなかった。

親父が勝手に作った借金だってあんな体になるまで返す必要なんてなかったはずだ。

離婚することだって出来たはずだ。

それなのに……



おふくろは籍を抜かなかった。



俺には理解できないおふくろの気持ちを、俺は知っていた。

だから親父をいくら憎いと殺したいと思っても、殺すことなんて俺には出来なかった。

憎みきれなかった……


悲痛な叫びを聞くと、俺は堪らなく胸が苦しくなる。

「旦那が私と子どもを捨てようとしてる……助けて……!」

本当はおふくろも同じように思っていたのではないか。

おふくろの心の叫びではないか。



俺は全力で助けたいと思った。



俺の存在によって、家族が救われるのなら。

正しいのか分からない。

誰が悪いのか、原因がなんなのか。

そんなこと分からない。

だけれど、悲痛な叫びが俺には痛い程伝わってくるんだ。