「旦那が私と子どもを捨てて浮気相手と駆け落ちするかもしれない、旦那と浮気相手を別れさせて欲しい」
 
その悲痛な依頼内容を聞くたびに、俺の中で眠っていた憎悪と悲しみが蘇ってきていた。
 
俺とおふくろを捨てた親父。

親父に捨てられた俺とおふくろ。

おふくろの葬式の日、誰かが言っていた。

「家族を捨てて、女と蒸発したらしいわよ。可哀想に……」

 
親父が俺たちを捨て、いなくなったのには理由があるんだと思っていた。

捨てたわけではないと、信じたかった。

 
でも俺が思っていた通りだった。


女がいた。

俺たちを捨てた。

俺とおふくろを捨ててまで、一緒に居たいと思える女が

俺とおふくろに多額の借金を背負わせてまで一緒に居たいと思える女が

いた。

おふくろは親父のせいで死んだ。

 
俺は今でもずっと思っている。


俺はおふくろが死んでから何度も親父を殺しに行こうと思った。

憎くて憎くて堪らなかった。

あの男だけが生きているなんて俺は許せなかった。

でもおふくろのおかげなのかもしれない。

俺が人殺しにならなかったのは。