「もしもし」
『誕生日のところ悪いね、
ちょっと話があったもんで』
あっという間に振り出してしまった雨が、
サキの貸してくれた折り畳み傘にポツポツと落ち、
そのはじける音は僕と相沢の会話を少し遮る。
「あと2時間も経てば終わるよ。
話って、奈津美を派遣したことへのお礼の件ですか?」
交通量の多い国道沿いに出た僕の右耳から聞こえる
雑音とは対照的に、左耳に当てたケータイから聞こえる音は
相沢の声だけで、彼の背後はとても静かだった。
『何のことだよ。
それより、サボテンだよ、赤い花が咲きやがった』
僕はケータイを左耳にぴたりと当てて聞いた。
『それでこの花をおまえにあげようと思ってさ』
「どうして?僕の花も、咲くかも知れない」
『いや、これ、おまえの誕生日に咲いたんだし、
おまえが願ってみろよ。
それに俺はロマンチストじゃないからな』
【僕の誕生日に咲いた花を僕にくれる】
と言っている相沢が一番、
ロマンチストじゃないか、と思って笑えた。
「僕は何を願うと思う?」
駅前の横断歩道が赤を知らせていたので、
僕は立ち止まって話を続けた。
『好きな女との恋の成就でも願えよ』