「なに考えてるの?」
サキが口をつけたグラスをナプキンで
拭きながら言った。
「僕にはもったいないお姫様だと思って」
サキは背筋が凛と伸びていて、
若さと自信がその美しさに加担している。
「だから、開放してくれたの?」
「振られたのは僕だよ」
被害者意識などあるはずもなく、
はたまた別れてより綺麗になったサキに対して
羨望の念を抱いたわけでもなく、
ただ、嬉しかった。
彼女は階段の数段上から
微笑みかけるようにして言った。
「来年の誕生日もひとりだったら、
私がもらってあげる」
僕を【所有】しようとしていた
少し前のサキは、もうそこにはいなかった。