僕は生クリームが苦手だった。


だけど奈津美が作ったそれを見た僕は、
心から感激し、自然に残さず食べたいと思えた。

直径15センチほどのスポンジは、
元からそれを纏っていたのかのように
均一に白くデコレーションされ、
数種類のフルーツで囲まれた模様の中央に、
僕の名前の書かれたマジパンが載せられていた。

奈津美は昼礼拝の終わりを告げるベルの鳴った
数分後に静かに404教室に現れて、
僕にそれを差し出したのだった。

「どうして分かったの」

僕が尋ねると、奈津美は「女の勘だよ」と言った。

僕は裏に潜んだ真実を思って笑った。
きっと相沢は今頃タバコをふかして笑っている。

相沢は僕が喜ぶと同時に、
【やられた】と白旗を揚げることが
楽しくて仕方ないのだと思う。

僕はどうしても、
彼に借りを返すことができないらしい。