ケータイを閉じてポケットに仕舞い、
残りの缶コーヒーを飲み干して立ち上がると、
礼拝堂の階段を降りてくる奈津美と目が合った。
【初めて】見る長袖の彼女と少し伸びたその髪に、
僕の心は穏やかな痛みを感じていた。
それを払うように一度咳払いをして、
「久しぶり」と声を掛けた。
彼女は左手で髪を耳に掛けながら
「本当に久しぶりすぎるよ」
と言って僕の手元に視線を落とした。
「お昼はもう食べちゃったのね」
僕はゴミをまとめた袋に空き缶を入れて
「デザートはまだだよ」と答えた。
奈津美は笑って、
「礼拝の日はお昼が遅くなっちゃうからね、
だいたい一人なんだけど」と言った。
「篤い信仰心をお持ちなようですね」
僕が右手で胸に十字架を作って言うと、
奈津美はその手を取って「はいはい」
と言いながら学食のほうへ走った。